東日本大震災で被災した東北のお取引先のなかには、社屋が水に浸かって商品が流されてしまったうえ、火事があっても消防車が来られないような事態に直面したところがあった。これ以上ない辛い経験だった。
また、かねてから懸案だった後継者問題や自分の年齢に照らし、災害で社屋が損壊したことを契機に(卸業を)「やめてしまおう」という人はいなかった。むしろ(地域の生活者に)最も必要とされるこの時に「やめてたまるか」という気持ちを前面に出していた。概ねで廃業したところもなく、聞く者にとって涙が出るような決断だったと思う。
われわれが取り扱っている商品は日ごろ、特に注目を浴びるような性質ではない。例えばトヨタが折々に発表する新車に比べたら(世間における)インパクトが弱い。それが生活必需品というものである。
ところが東日本大震災が起こった以降は、被災地をはじめ全国の消費者が生活必需品の大切さを知った。水道管を介して届く水と同じで、(供給が)断絶した時にその有難味が初めてわかった。
このように大切な生活必需品について、各地域で流通を任されている卸業は誇りと自負を決して忘れてはいけない。東日本大震災は、問屋業に改めてそのことを教えてくれたと思う。
花形産業ではない問屋に
存在価値知らしめた災害
問屋業の経営者らはとかく、「何でこんな商売を選んだのか」とぼやく。「もしも生まれ変わったら?」という問いに「また問屋をやりたい」と答える人は、私を含めおそらくいないのではないか。
皆、先代が作ってくれた下地に乗っかっていられることに感謝の念を忘れ、創業者の苦労を顧みずに「何でこんな商売を……」と思っている。私自身、しがらみなく生まれてきたら新規で問屋業を立ち上げるとは考えられない。生まれ変わったらきっと違ったことをやっていると思う。
やはり、3-11はそうした卸の概念に小さな風穴を開けたように感じる。
卸業は花形産業ではないけれど、その中で光る存在になることは「人生としていいのではないか」という考え方を植えつけたのかもしれない。
卸売業が華やかさを欠く理由の1つに、新規参入がない点を挙げることができる。
この点について、かつてあるジャーナリストが卸を「この業界は儲からないからこそ良い」と評したことがある。
つまり、儲からないから商社などの新規参入に浸食されることがなく、既存の事業者が食べていける。これが高収益ビジネスだったら、多くのアウトサイダーに狙われて大変なことになる――というのが先の主張の骨子だった。
やらなければならない以上、「なんで……」と思っていたら不幸でしかない。とりもなおさず、3-11は卸業に「腹を括ってやるしかない」と教えてくれたのだと思う。
多くの震災体験を反映で
周到な構えと事前対策を
また違った視点で震災から得た教訓という意味では、安否確認で貴重な経験をした。仲間問屋や取引先など、相互で連絡し合って無事を確かめあう作業を重ね、ようやく1週間をかけて全体像を掌握することができた。この時の貴重な体験を元に、このほど全卸連は「災害マニュアル」を作成した。
実際に被災した方々の知恵と力を借り、緊迫した場面では「何が必要だったか」を聞き出した。加えて、アンケート調査で広く掌握した被災者の実地体験を同マニュアルに反映した。勘所として、被災経験者と(未経験者の)ギャップを埋めることが必要だと考えた。
具体的な内容を説明すると、まず揺れている間は何もしてはいけないという初動の心得や、次いで「1分後にすべきこと」のほか、順を追って2~3分後の対応へと必要なことだけを盛り込んだ。
さらに、肝心となる連絡方法も実態に沿った内容だから有効性がある。アンケートの結果で明らかになった最も有効な連絡手段は、フェイスブックだった。間もなく刷り上がってくる同マニュアルは、5月に開催する第38回の通常総会で配布しようと考えている。
地球は生きている。心配のし過ぎでは仕事どころではなくなってしまうが、イザという時にサッと動ける構えだけはしておきたい。
原発の稼働停止に関連し、今夏も節電の必要性があると懸念されている。さらに全ての原子炉が止まった反動で企業に10~20%近い電力費負担がのしかかると、相当に厳しい事態と向き合うことになる。
一方で、安全確認を経て原発が再稼働することに対し、(福島第1原発の爆発で)被害に遭った人の心情としては、もう絶対に信用できないだろう。
企業のために人間が犠牲になるのは本末転倒だ。人間あってこその企業でありながら、現代は経済発展のために企業が優先されているように見える。
結局は人の命よりも国益が大切にされている世の中だという気がする。こうした誤った考えは、民意で打開しなければならない。
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この記事は週刊粧業 掲載
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