はじめに
日本で「化粧」ということばが使われたのはいつからだろう?『枕草子』に「けそう」の読みが出てくるのが、化粧に関する最も古い記述らしい。その後、「仮相」「化生」「仮粧」などが同じ意味で使われてきたが、その意味はいずれも「顔をきれいにすること」と対象が顔に限定されていた。一方、英語のCosmetics(化粧品)は「白粉、ローション、ならびに肌色、皮膚、毛髪、爪などを美しくするもの」という意味で、この化粧の意味する範囲は、顔だけに縛られない。多様化した今は私たちもその意味で使っている。
また、日本最古の化粧品は7世紀に作られた鉛白とされる。その後江戸時代まで、武士階級や都市商人の婦女、遊女を中心に化粧の習慣はあったものの、本格的に一般化したのは明治以降のことのようである。
世の中が進歩とともに多様化し一般化していくそのひとつが化粧品である。新しいものが生まれては消えていくこの分野で、人間の知恵に支えられて新しい素材を創造し、配合して製品が生まれている。この連載の第3回『天然ではなく合成』の続きとしてこのことについて触れてみたい。
ヘアスタイリングの合成素材
男女を問わず髪型にバラエティーを与えてくれるのがヘアスタイリング剤である。かつて菜種油とロウを練り合わせて作った硬めの油「鬢付け油」は、今も相撲の力士が髷を結う必需品である。ジェームス・デーンやエルビス・プレスリーの髪型を背負ったポマードも忘れてはならない。しかしこれらは、髪をさわればベタつき、洋服の襟は油で汚れ、ほこりを付着させ、洗髪も大変だったと団塊の世代のお父さんなら思い出すに違いない。
ベタつかず、仕上げも自在に落ち着かせたいとのニーズから今のスタイリング剤がある。例えばヘアスプレーは、アメリカで冷媒として使用されていたフロン(現在は使用していない)をエアゾール製品に応用したのが始まりで、日本で生産されたのは戦後である。ヘアムースはこれよりも新しく、1984年に欧米で爆発的人気を呼び翌年から若者を中心に広く使用されるようになった。
云うまでもないが、ヘアスプレーはヘアスタイルを整えた後に吹き付ける。ヘアムースは容器から噴出される泡を手やブラシに取り、髪に塗り付けながらヘアスタイルを整える。両者ともすぐに乾き、乾いたあとは少々の風でもヘアスタイルは崩れない。その秘密は何か?髪の毛どうしを接着し髪の毛1本1本の表面を覆い、ちょうど浴衣をのり付けするように毛髪を固定するのである。ややゴワゴワした感じになるのはこのためだ。
この接着剤の働きをしているのが合成素材である。接着機能は合成ならお手のモノだが、安全でつやを与え、櫛を通してもはがれてフケのようにならず、しかもシャンプーで洗い流されるような条件が加わるとその数は絞られる。ビニル系、アクリル系の数種類の合成高分子が使用されている。
残念ながら毛髪を接着するため髪が硬くなりやや不自然さをまぬがれない。そこで、毛先の微妙な表現ができ固めずに柔らかなシルエットにまとめることを目的として固形ワックスが主成分のヘアワックス、ジェル、ミストのような多様な剤形が今は汎用されている。
その素材の中には、さらに乱れても髪を一振りすれば形が戻るような形状記憶素材も合成されている。各社とも合成品の力を借りて理想的なヘアスタイリング剤開発を模索している。
島田邦男
琉球ボーテ(株) 代表取締役
1955年東京生まれ 工学博士 大分大学大学院工学研究科卒業、化粧品会社勤務を経て日油㈱を2014年退職。 日本化粧品技術者会東京支部常議員、日本油化学会関東支部副支部長、日中化粧品国際交流協会専門家委員、東京農業大学客員教授。 日油筑波研究所でグループリーダーとしてリン脂質ポリマーの評価研究を実施。 日本油化学会エディター賞受賞。経済産業省 特許出願技術動向調査委員を歴任。 主な著書に 「Nanotechnology for Producing Novel Cosmetics in Japan」((株)シーエムシー出版) 「Formulas,Ingredients and Production of Cosmetics」(Springer-Veriag GmbH) 他多数
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