第7回 常識ではなく認識

はじめに

 まず、最初に図1を見て頂きたい。

 

図1 フレーザーの錯視.jpg

(図1 フレーザーの錯視)

 黒い斑点状のエレメントが、らせんのように配置されているように見えたと思う。ではそのエレメントに沿って指を動かしていただきたい。実はこれでわかったように本当は同心円状に配置されている。これは103年前に英国の心理学者ジェームス・フレーザーが論文に発表した錯視の図だが、その同心円状の事実がわかったとしてもらせん状に見える現実はかわっていない。つまりここで確認したいのは、知識はあっても認識を回避することはとても困難がともなうということである。

 我々が思い込んでいる錯覚化された常識の世界がそのまま横行しているのが、化粧品の世界では少なくないように感じる。今回はそれぞれ2つのアイテムを対比してその事例を記してみたので、一読していただきたい。

どう違う、なぜ違う?

【養毛料と育毛料】

 あなたは養毛剤と育毛剤の製品があれば、どちらを手にするだろうか?化粧品の世界は、よく似た名前が付けられており、どちらも同じように毛髪や頭皮を健やかに保つ製品なので間違いやすいが、実際には違う。

 まず辞書の意味を調べると、養毛が「健康な髪の毛の成長を助けること」で育毛は「抜け毛を防ぎ、健康な髪が成長できる環境を整え、新しい髪の毛を育てること」の違いがある。つまり養毛料は化粧品で、フケ・かゆみを抑え、不足しがちな水分・油分などを補って、毛髪と頭皮の健康を保つ製品である。一方、育毛料は医薬部外品で育毛、脱毛予防、発毛促進、フケ・かゆみを抑えるなど、より直接的な育毛効果がある。製品の多くは薬用育毛剤と薬用発毛促進剤など、名前に「薬用」が付けられている。

【パールとラメ】

 パールとラメは、ネールカラーやポイントメークアップ化粧品などのキラキラした光沢のことであることは誰にでもわかるが、果たしてその違いを即答できるだろうか?

 パールは、言葉どおり真珠のような微妙なニュアンスと深みのある光沢のことをいう。パール光沢がある口紅やネールカラーの歴史は古く、昔は魚のうろこから作られたパール光沢剤が使われたこともあった。現在では雲母に酸化チタンをコーティングした合成パール顔料が使用されている。ピンクパールやブルーパールなどは、酸化チタンのコーティングの厚さを変えることで作られている。ラメは、スポットライトを浴びて輝く金属のような光沢のことである。樹脂のフィルムやアルミニウムなどを多層に加工して光の反射を変化させたものや、アルミニウムを蒸着して適当な大きさに裁断したものなどが、ラメ光沢剤として配合されている。

【エタノールとアルコール】

 現在、化粧品に使用されているエチルアルコールは成分名として「エタノール」と表示されている。エタノールは化粧品になくてはならない収れん、殺菌、清浄、清涼、溶解等様々な作用があり、その効果を高めている。

 化粧品のエタノールは数%の割合で多くは刺激や悪影響が少ないと思う。しかしその化粧品を使っただけで、注射時にエタノール消毒で肌が赤くなるような過敏な反応を示す敏感肌であれば、ノンアルコール化粧品も選択肢になると思う。この場合ノンアルコール化粧品なのに表示名が「○○アルコール」とされている成分がある。これはエタノールではない。例えば「オリーブアルコール」「ヤシ油アルコール」「ステアリルアルコール」「ラウリルアルコール」などは、分子の構造上アルコールに属すが、実際には水に全く溶けない成分で、外見は油状のものから、固体のもの、半固体のものなど様々で乳化安定剤として配合している。

【gとmL】

 現在化粧品の内容量を記載するときには2種の記号に使い分けている。クリーム状、ジェル状の製品の他、石鹸やファンデーション、メークアップ料といった固形製品は「g」と表記され、乳液状のものから、シャンプー、化粧水、フレグランスなどは「mL」と表記されている。

図2 上皿天秤.jpg図3 メスシリンダー.jpg図2 上皿天秤〈左〉
図3 メスシリンダー

 この基準となるのは中身である。中身の量を測定するときに、上皿天秤(図2)のようなはかりでの測定に適しているもの、つまり粘度が10,000cps(センチポイズ)以上のものは「g」、メスシリンダー(図3)のようなはかりが適しているもの、つまり粘度が10,000cps未満のものは「mL」が製品に記載される。cpsは粘度を示す単位で目安としては、1cpsが水の粘度、100cpsがサラダ油くらいの粘度、10,000cpsは非常にコクのある乳液の粘度で、傾けたとき流れるか流れないかの状態である。

【顔料と染料】

 顔料と染料は、ともに化粧品に配合される色素の種類である。ファンデーション、フェースパウダーなどが顔料の配合化粧品で、色の明度、彩度、色相などが要求されるため酸化チタン、酸化亜鉛などカバー力の優れた白色顔料と、ベンガラのような着色顔料の何種類かを組み合わせて微妙な色合いを作り出している。ヘアダイ、ヘアマニキュアといったヘアカラーリング剤などが主に染料の配合化粧品である。口紅やネールカラーなどは、色の持ちや発色を考え顔料のみと顔料と染料の組み合わせた配合化粧品がある。

 そもそも顔料は、水や油などに溶けない色素で、普通は粉砕し、微粒子の粉末原料にして配合される。汗や皮脂にもにじみにくく、肌の色が染まることはない。染料は、水や油などに溶ける性質を持った色素で、染着性がある。このような色素は肌に悪いと言われているが、肌への安全性については十分に考慮され配合量の規制がされているものもある。

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島田邦男

琉球ボーテ(株) 代表取締役

1955年東京生まれ 工学博士 大分大学大学院工学研究科卒業、化粧品会社勤務を経て日油㈱を2014年退職。 日本化粧品技術者会東京支部常議員、日本油化学会関東支部副支部長、日中化粧品国際交流協会専門家委員、東京農業大学客員教授。 日油筑波研究所でグループリーダーとしてリン脂質ポリマーの評価研究を実施。 日本油化学会エディター賞受賞。経済産業省 特許出願技術動向調査委員を歴任。 主な著書に 「Nanotechnology for Producing Novel Cosmetics in Japan」((株)シーエムシー出版) 「Formulas,Ingredients and Production of Cosmetics」(Springer-Veriag GmbH) 他多数

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