第32回 「新しい販売スタイルも女性から」

 「これは買わないでください」。この一言で、私の心をつかんでしまったのは、エストネーション六本木ヒルズ店のA子さん。

 天候不順が続く中、秋ファッションの動きと人の流れをリサーチするため、銀座、表参道をまわって六本木ヒルズまでたどり着いた時のことです。仕事のついでに「今シーズン買うならコレ1本」と決めて黒の細身パンツをチェックしていると「お客様、お急ぎでしたらフロア全体からいくつか見つくろってお持ちしますが......」と声を掛けられました。

 経験値が高くなると、相談してモノを買うことが少なくなってきた中、時間がないことを察知して、黒の細身パンツだけを持ってきてくれるという申し出に、センスの良さを感じました。数分以内で3本のパンツを手にした彼女が戻って来ましたが、私のリクエストの「レザーがあれば......」という、実は最も大切なキーワードを忘れずにいた彼女は、開口一番「今季レザーパンツの細身は無いのですが、レザーの質感を感じさせる光沢のあるタイプをお持ちしてみました。お車の運転がラクだったり、洗濯のことを考えると、リアルレザーより使い勝手がいいかも、と思いまして......」。

 一瞬のうちに私が手に車のキーを持ったままだったのを見逃さず、次々とかかってくる電話の対応から、めんどくさいことが苦手? とライフスタイルばかりか性格までも読まれたようです。「そうね! リアルレザーでなくてもいいかも。その分、カットソーやニット、ショートブーツの予算にまわせるわね」。思わず本音で話してしまうと、「正直言って、インナーで使うカットソーならZARAでも充分です。あと、ブーツはピエールアルディあたりがお似合いかと思いますが、うちはコンサバ系が多いので、お時間あれば伊勢丹ものぞいてみてください」。

 予算が余って買う気満々の私に対して、自分の売り上げをおいてでも「他店のいいもの」をそっと教えてしまうユーザー目線でのアドバイスは、情報の信頼度を高め、私のようなファッションのプロをも引き付けてしまいました。

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中村浩子

(株)ヴィーナスプロジェクト代表取締役社長

「JJ」「VERY」等ファッション誌の編集・企画を手がけ、黒田知永子や三浦りさ子等、その時代を代表するタレントをプロデュースし、トレンドを生み出してきた。 現在まで読者モデルを1万人以上発掘しており、現在は女性消費者を取材し続けてきたノウハウを活かし、ファッション・アクセサリー・ビューティに関わる商品開発やイベントを企画、ブランドプロデュース、コンサルティングまで幅広く行っている。

http://www.venus-project.jp/pro/02.html

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