「ここ数年は、前年売上をなかなか超えられない状況が続いていますし、恐らく来年もこの状況が続くでしょうね」「弊社が戦っている市場は、もう既に頭打ちになっているので、売上を上げようなどと言ったところで絵に描いた餅になってしまいます」
幹部クラスの方々から、あるいは経営トップの方からも、このような声を聞くようになったのは、今に始まったことではありません。
皆さんに知ってもらいたいのは、そのように考えてしまうが為に企業は成長しないのであり、決して外部環境が理由で成長しないわけではないという事実です。とりあえず前年並みの売上を維持しようといった目標を設定してしまうということは、これまでと同じような仕事のやり方を続ける、これまでと同じような組織体制を続ける、ということを全社員に宣言するようなものです。
そもそも人は変化を嫌う生き物ですから、その時点で、「何かを変えよう」という機運が全く生まれなくなるのは自明の理です。そのような状態に陥ってしまっている企業の売上が、飛躍的に上がることなど全く期待できませんし、前年と同じ水準の売上を維持することすら困難になるでしょう。つまり、成長軌道に乗せられない企業は、決して「成長できない」わけではなく、自らが「成長しない」道を選択しているということになります。
チャレンジングな高い目標を設定し、その高い目標を達成するために「何を変えるべきなのか」「何に変えるべきなのか」「どうやって変えるべきなのか」を計画に落とし込み、PDCA(計画、実行、評価、改善)マネジメントを回せる企業こそが、成長を実現するのです。
「景気が良くなってくれれば......」という願望が悪いとは言いませんが、2002年2月から始まって戦後最長の継続期間(73カ月間)だったといわれる景気拡大期(いざなみ景気)に、いったいどれだけの企業がその恩恵を受けていると実感したでしょうか。
「もはや、外部環境の変化に期待するのではなく、自らが変化を起こして成長軌道に乗せるしかない」
まずはこの事実をしっかりと認識することが必要です。そのように考えると、一番の敵は景気でもなく、競合企業でもなく、高い目標を受け入れられなかったり、仕事のやり方を変えられなかったりするような組織の風土になります。
「達成が厳しそうな高い目標を立ててしまうと、毎月の営業会議で叱責を受けるのは自分だから、目標はできそうな水準のものにしておきたいんです」「うちの会社は、自ら立てた目標の達成度合いが評価される制度なので、達成が難しそうな目標を立てると評価が下がって賞与が下がってしまいます」
本来は、「しっかりと売上・利益を上げていける体制にしたい」と考えて導入している経営管理体制、あるいは人事評価制度が、その目的を達成しないどころか、全く逆の行動を助長しているようなケースが散見されるのも事実です。
企業を成長軌道に乗せる条件は、「高い目標設定」とその実現に向けた「変化」。ただでさえ組織にストレスのかかるようなこれらの取組を、余計なジレンマに捉われることなく、出来る限りスムーズに受け入れられるような環境づくりこそが大切ですね。
【著書】
『これだけ!PDCA』(すばる舎リンケージ)
『これだけ!5S』(すばる舎リンケージ)
『絶対に断れない営業提案』(中経出版)
【連載】
◆日経ビジネスオンライン『売れる営業提案』
第5回:「売上目標は達成しないのが当たり前??」
◆ダイヤモンドオンライン『経営の"肝"-あなたの会社が成長しない理由は?』
第3回:新規開拓に邁進できる営業体制を作る
川原慎也
(株)船井総合研究所 東京経営支援本部 部長 グループマネージャー
1998年船井総合研究所入社。1兆円以上の大手企業から社員3名の零細企業に至るまで、企業規模や業種業態を問わずに戦略実行コンサルティングを展開するという同社では異色の経験を持つ。「視点を変えて、行動を変える」をコンセプトに、戦略策定段階では「お客さまとの約束は何か」→「約束を果たすためにやるべき仕事は何か」を考え抜こう、計画策定段階では「計画が頓挫する可能性の対処策」を考え抜こう、実行段階では「勝たなきゃ組織一体化しない」から“勝ち”を積み重ねる階段を考え抜こう、と経験に裏打ちされた“視点”への刺激が散りばめられる。最近は、「営業戦略の落としどころは営業マンの行動配分」「断れない提案」「新規開拓一点集中」、等の“視点”の提案を始めている。
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