【週刊粧業2014年9月1日号15面にて掲載】
皆さんこんにちは。公認会計士の山藤です。
第5回では、遠隔地のロケーションにおける出納担当者による現金の横領について書いてみたいと思います。
(不正事例)
被害企業Aは日本企業であるが、ASEAN圏においても海外子会社Bによる事業展開を行っている。B社は所在国内で数か所事業所を保有しており、従業員による経費の立替が多く発生する事業形態であり、事業所内にも手元現金をある程度用意する必要がある。
B社の事業所において、現金出納担当者により、残高の虚偽の報告を使用した現金横領が発生した。出納担当者は、従業員の立替経費支払用の手元現金から着服し、事業所上席者に対し日次で行う残高カウント結果報告や月次の残高報告でも、虚偽の報告を行っていた。
(発生要因)
一般的には、このような事業所の手元現金は、日次での残高カウント結果報告や月次の残高報告について出納担当者とは別の従業員によるダブルチェックがなされて、事業所長の承認を受けるケースが多いと思います。また、こうした報告資料は本社に集められて、本社管理部門のチェックを受けることになります。
しかし、本社管理部門では、こうした報告資料の承認欄の担当者及び事業所長のサイン等を以て、手元現金の残高の正確性を確認することも多く、実際には最終的に不正を防止する機能は、事業所におけるダブルチェック及び事業所長の承認作業となります。
今回の事例は、事業所が全て現地人スタッフにより運営され、現金出納業務は金庫の鍵の保管も含め1人のスタッフに一任されて、他の従業員が出納業務を行うことは不可能なケースでした。ダブルチェックについても自己資金等で一時的に補填するといった手法で掻い潜ってしまえば発覚を逃れられますし、チェック担当者不在の際に出納担当者が自らチェックを行ってしまうようなケースでは、そもそもダブルチェックは全く機能しないことになります。
事業所長も報告資料だけでは、記載された残高について疑うことは困難でしょうし、手元現金の実際残高と帳簿残高の不一致が長年気づかれないことは十分にありえます。さらに今回の事例では、通常B社の日本人管理部門スタッフが各事業所をローテーションで、資金管理状況も含めて視察しますが、その事業所では経験が長い現地人スタッフが多く、業務の信頼性が高いという理由で視察ローテーションから何年も外れていました。
このように、権限を1人の担当者に集中させてしまったり、ダブルチェックが徹底されなければ、今回のような不正事例が発生してしまいます。
田中計士
新日本有限責任監査法人 シニアマネージャー
2000年、監査法人太田昭和センチュリー(現新日本有限責任監査法人)に入所後、化粧品、食品、宝飾品などの消費者製品メーカーを中心とした監査業務に従事。その他、株式公開支援業務、内部統制アドバイザリー、デューデリジェンス、経理財務専門誌への寄稿、セミナー講師等、幅広い業務を行う。
http://www.shinnihon.or.jp/corporate-accounting/industries/basic/cosmetics-and-toiletries/
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