第22回 リニアではなくシニア

【C&T2015年4月号7面にて掲載】

はじめに

 昨年、夢のリニア中央新幹線が着工した。東京-名古屋間を40分、さらに大阪まで1時間7分での到着を目指している(図1)。


 大幅な時間短縮によって名古屋までの開業でも、ビジネスや観光などに約10.7兆円の経済効果があると試算している(三菱UFJリサーチ&コンサルティングより)。

 超伝導技術の、海外への輸出も日本経済の強みにできる。しかし、大阪までの全区間の建設費は約9兆円で事業としてペイしない、難工事と残土処理、原発一基分の消費電力、地下水枯れや希少動物といった環境への配慮など課題も多い。

 一方なんとなく不穏な世の中で、元気なのは中年女性たちである。しょぼくれた男どもを尻目に溌剌とバーゲンをはしごする。アラ還女性でもノリはまるで中学生だ。しかし、実生活はバツイチだったり、夫の会社が破産したり、義父の認知症の介護、息子のひきこもり、癌闘病などシリアスな悩みに満ちている。明るく元気があっても現実は厳しい……でもでもやっぱり元気なシニア女子である。

 資生堂によると、全女性人口に占める50才以上の女性の割合は、2010年で46.1%だが、2019年には50.2%に拡大し、過半数を超える。資生堂は「シニア世代がマジョリティー(多数派)となる、時代の一大転換期を迎える」とし、新しい環境に即した化粧品の新市場を自ら作り出すという2)。同社はこれまで2年以上をかけて計6672人のシニア女性に対面でのインタビューを実施した。「いくつになっても“光りもの”(パール感)が好き」「化粧水より、流れ落ちないジェルがいい」など本音を聞き出し、その声をもとに新製品を上市した。

 冒頭のリニア研究そのものが、東海道新幹線開業前にスタートし、すでに60年以上経過したシニア世代である。共に夢や元気があっても課題や問題をかかえている。そこで今、マーケティングの中で注目されているリニアではなくシニアについて述べてみたい。

シニア世代とは

 シニア世代とは、いったい何歳くらいからの人たちに対して使うか? 英語でいう「senior」の意味は「年長の」「年上の」で、日本だと「高齢」とか「年配」という意味にとらえる方が多いため、60才以上と考える人が多いように思われる。しかし、実は「シニア」に対するしっかりとした定義はない。50才以上という説もあれば、定年退職してからという説など様々。

 それでは、よく耳にする「団塊の世代」というのは、何歳くらいの人のことを言うのだろうか? 団塊の世代とは、第二次世界大戦後の第一次ベビーブームに生まれた世代で、1947年から1949年の3年間に生まれ、現在67才前後の方が団塊の世代に当たる。では「団塊ジュニア」というのは? 団塊ジュニアとは、団塊の世代の子供世代のことで、第二次ベビーブームの1971年から1974年に生まれた世代である。現在40代前半の方がちょうど団塊ジュニアに当たる。

 シニア世代というのは、団塊ジュニア世代よりは少し年代が上の人たちのことだろうか。結局、年代によって感じる「シニア」には違いがある(表1)。


 確かに自分自身の感覚に置き換えてみても、10代の頃に老人だと感じた人が40代になっても同じようには感じない。45才からをシニアと呼ぶ場合もあるし、50才からをシニアと呼ぶ場合や、60才からをシニアと呼ぶ場合もある。個人的には『心の元気な中年』は全てシニアでいいと思うのだが……。

 実際に映画館のシニア割引、東京ディズニーリゾートのシニアパスポートなど、60才以上からの割引サービスに「シニア」という言葉が多く使われていることからも、60才以上がイメージされやすい年齢なのかもしれない(もちろん65才以上、70才以上からというサービスも多くある)。

 違う呼び方では、「シルバー」「高齢者」では60代後半から、「老人」では70才前後から。老人>高齢者>シルバー>シニアという図式になるのだろう。また、WHO(世界保健機関)ではシニアではなく高齢者を65才以上と定義付けているし、人口構造を示す世界データでは老年人口を65才以上としている。

シニア世代の装い

 高齢化でシニア世代の女性人口は増えるなか、50才以降の女性をターゲットにした化粧品が続々登場している。肌は加齢とともに、しわやたるみがうまれ、黄色くくすんでくる。補正するために黄色と反対色である紫色を化粧下地と仕上げ用パウダーに使用して、ファンデーションを厚塗りしなくても顔色を綺麗に見せている。

 また、これまでシニア向けはベースメーク用品が主だったが、アイシャドーなどの色ものにもシニア向け製品が登場している。メークのコツは隠すのではなく、チークや口紅で色味を加え、顔色全体を明るく見せることが大事という。ただ明るくしようと鮮やかな赤やローズを選んでも、顔色が悪く見えてしまうこともあるので、肌になじみやすい色で、適度につや感のあるものを選ぶことが推奨されている。

 眉毛は「顔の額縁」とも言われ、顔の印象を左右する。ところが、年齢を重ねると毛量が減ったり、目元の筋肉や皮膚が変化したりして眉毛の書き方に悩む女性が多い。例えば、年配の女性に多く見られるのが細い眉。太めの眉を描いた顔に比べて頬の面積が強調され、下ぶくれに見えやすい。また眉毛の毛が減り短めの眉にしている人も下ぶくれに見えやすい(図2)。


 そこで太く若々しい長い眉を描くには、図2の③に示すように「目頭(めがしら)」と目頭上部の一番高い位置にあたる「眉山(まゆやま)」、「眉(まゆ)尻(じり)」の位置をあらかじめ決めてから描くと分かりやすい。この際、驚いた顔をしたときなどに眉を引き上げる筋肉、眉(び)弓筋(きゅうきん)に沿って描くことを意識する。鏡の前で驚いた顔や笑顔を作り、眉の動く位置を確かめると分かりやすい。

 「10度、20度、30度」と言って、笑顔をつくるスマイル党の泡沫候補者をTVの政権放送で見たことがある。実際、大切なパフォーマンスで良い印象を与える笑顔にはポイントがある。笑ったときに、①目尻が下がる②目が細くなる③口元にしわができる④口角が上がる⑤口が開く、の5つがポイントになる(図3)。

 100%のビッグスマイルは初対面のとき相手が引いてしまいがち、30%、50%、70%などシーン別に笑顔を使い分けられるように指導する企業もある。笑顔の効果を高めるコツもある。背筋を真っすぐ伸ばしたうえで、上体を少し前傾にした姿勢がいい(図3)。目線が少し下から相手を見上げる「敬い目線」になるからである。歳を重ねたシニアでも、真っすぐ対等な目線では不躾な印象を与えることがある。

おわりに

 シニア世代の男女の違いに面白い例えがある。「なぜあなたは成功したんですか?」と質問すると、女性は「私はラッキーだから」と答え、男性は「俺が頑張ったから」と自信満々に答えるそうである。その言葉の背景には、男性は一人しか上れないハシゴをどんどん上っていこうとするところがあり、女性はネットワークで連携しながら世の中を動かすからだという。

 男性は本質的に闘う生きものなのかもしれない。男性と女性のどちらが良いとか悪いではなく、筆者は両方の生き方の人同士が共存するシニア社会になればいいと思う。

 参考文献
 4)読売新聞朝刊17面2015年1月9日付
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島田邦男

琉球ボーテ(株) 代表取締役

1955年東京生まれ 工学博士 大分大学大学院工学研究科卒業、化粧品会社勤務を経て日油㈱を2014年退職。 日本化粧品技術者会東京支部常議員、日本油化学会関東支部副支部長、日中化粧品国際交流協会専門家委員、東京農業大学客員教授。 日油筑波研究所でグループリーダーとしてリン脂質ポリマーの評価研究を実施。 日本油化学会エディター賞受賞。経済産業省 特許出願技術動向調査委員を歴任。 主な著書に 「Nanotechnology for Producing Novel Cosmetics in Japan」((株)シーエムシー出版) 「Formulas,Ingredients and Production of Cosmetics」(Springer-Veriag GmbH) 他多数

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