【週刊粧業2018年11月19日号4面にて掲載】
第34回の当コラムにおいて、商標の早期審査制度をご紹介いたしました。審査期間を2カ月程度まで短縮できる便利な制度である一方、使用証拠の提出を要するなど、少々ハードルが高い面があるのも確かです。
そんな中、特許庁が商標出願について「ファストトラック審査」を導入することとなりましたので、今回はその概要を紹介したいと思います。
「ファストトラック審査」とは、出願時に、「類似商品・役務審査基準」、「商標法施行規則」又は「商品・サービス国際分類表(ニース分類)」に掲載の商品・役務のみを指定している商標登録出願について、6カ月程度で審査結果を出すものです。現在、審査結果が出るまでに平均で8カ月程度かかっている状況ですので、この2カ月短縮はうれしいですよね。
化粧品・日用品業界の企業の場合、指定商品表示において標準的な表示を用いるケースが多いので、この施策との親和性は高いものと思われます。この取り扱いを受けるにあたって特別な申請等は不要で、上述の要件さえ満たしていれば自動的にファストトラック審査のルートにまわることになります。本年10月1日以降の出願が対象となりますので、その点はご注意ください。
便利な制度ではありますが、留意点もいくつかあります。一つは外国出願との関係です。
外国出願を想定している場合、日本出願から6カ月という優先権主張の期限がありますが、その場合に平均審査期間6カ月想定のこの制度に頼るのは危険です。より早期に審査結果を得られる早期審査制度の活用が望まれるところです。
また、積極表示をしたい場合にも注意が必要です。日本においては類似商品・役務審査基準に掲載の類似群コードによって商品・役務の類否の大枠が決まっていますが、これはあくまで特許庁の判断基準に過ぎず、実際の権利行使の際に意図していた範囲で権利が認められるかどうかはまた別の話です。
そうしたことを避けるため、また、第三者が権利範囲を確認した時にわかりやすくするように、重要な商品については積極表示という具体的な表示を行うことが推奨されます。その積極表示を行った場合、それが上述の要件を満たさず、ファストトラック審査の恩恵を受けられないケースが想定されます。とは言え、権利は意図した範囲でしっかり確保すべきですから、2カ月程度審査が遅れたとしても権利の確実性を重要視したほうがよいでしょう。
さらに、特許庁のアナウンスとしては、要件を満たしていてもそれ以上時間がかかることもあるということです。たとえば、多区分の場合など、案件の性質上時間がかかるケースは多々想定されますので、6カ月という目安に期待しすぎない方がよいでしょう。
以上のような注意点はあるものの、今後、類似商品・役務審査基準に掲載の商品・役務表示が充実していく方向でもあるようですし、正しく理解すれば出願人の強い味方になってくれる制度だと思われます。弁理士に依頼する際に本制度の利用を希望するなどして、上手に活用していきましょう。