【週刊粧業2017年4月10日号4面にて掲載】

 今回は、AIと会計について取り上げます。ここ数年のAI(Artificial Intelligence=人工知能)の進歩は目覚ましく、様々な企業がAIを活用したサービスを展開し始めています。

 化粧品・トイレタリー業界特有のものとして、AR(拡張現実)テクノロジーにAIを活用したメークが試せるアプリやチャット形式の美容カウンセリング、ユーザーに相応しいメークや化粧品を提案するサービス、ビッグデータの活用によるマーケティング予測等の事例があります。

 さて、会計分野における活用についてはどのような可能性があるのでしょうか。将来の会計についての考察をしてみましょう。

 ①仕訳入力業務がなくなる?

 クラウド会計ソフトはすでにAIを活用した自動仕訳機能を搭載していると謳っています。ただし現在は銀行口座、クレジットカードの情報を読み取る仕組みとなっており、現金主義の個人事業主・小規模企業向けといえます。

 しかし、AIによる自動仕訳という概念はあらゆる企業において模索されるべきでしょう。経費精算などは自動化に適した領域といえ、数多くのシステムが展開されています。

 また画像認識技術、自動翻訳技術も向上を続けており、領収書や請求書の画像データ読み取りによる自動仕訳が多くの企業において行われることも容易に想像できます。

 ただし、自動仕訳といっても定義付け、概念化といった作業は人間が人工知能に学ばせることになり、人間の手を一切介さない自動仕訳は当面の間、実現しないものと思われます。

 また、企業の経営環境の変化に応じて仕訳を計上するといったことは困難でしょう。

 ②決算書等の作成業務がなくなる?

 手書きで会計帳簿を記入していた時代とは異なり、既に会計ソフトが決算書を作成してくれます。この意味では、決算書の作成業務は既に消滅した業務と言えるでしょう。一方、有価証券報告書や計算書類の記載を自動化するという試みは無いように思います。毎年のように変化する会計基準や細則に対処することや企業の状況に応じた記載をAIが取って代わることはまだ難しいのかもしれません。

 ③債権債務の管理業務がなくなる?

 すでに書面の請求書は減少し、データの授受にて業務が行われていることが多いのではないでしょうか。

 化粧品・トイレタリー業界においては、一品一品は小額で数は多く、返品慣行もあるといった特徴から、アナログな業務が多いと考えられます。このような業務はAIを活用する期待の高い領域といえます。

 例えば業界によるデータの標準化もこれを後押しします。

 ④経営会議資料の作成業務がなくなる?

 様々なモノがインターネットと繋がり、実世界のデータが増え続けているIoT(Internet of Things)の時代において膨大な情報を把握するには人間よりもAIの方が優れているでしょう。AIを経営判断に生かすことを想定し、技術開発を進めている企業もあります。

 そうした状況においては、経営会議資料や、各種報告書の作成業務は不要となるでしょう。

 ⑤監査も変わる?

 日本公認会計士協会は「ITを利用した監査の展望~未来の監査へのアプローチ~」を公表し、各監査法人もAIを利用した監査用アプリケーションの研究を進めています。そこでは、従来の試査から精査的手法への変化、リアルタイムな監査、監査の自動化等が挙げられています。

 テクノロジーは急速に進歩しています。誰も想像のつかない未来が訪れることになるかもしれません。本稿がAIとの向き合い方を考えるきっかけになれば幸いです。
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田中計士

新日本有限責任監査法人 シニアマネージャー

2000年、監査法人太田昭和センチュリー(現新日本有限責任監査法人)に入所後、化粧品、食品、宝飾品などの消費者製品メーカーを中心とした監査業務に従事。その他、株式公開支援業務、内部統制アドバイザリー、デューデリジェンス、経理財務専門誌への寄稿等、幅広い業務を行う。

http://www.shinnihon.or.jp/corporate-accounting/industries/basic/cosmetics-and-toiletries/

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