【週刊粧業2019年11月11日号4面にて掲載】
セブン-イレブンがまだ50店にも達していなかった時期に、鈴木敏文社長にインタビューした。当時、日本の小売業で夜遅くまで長時間営業しているところはほとんどなかった。
「鈴木さん、午前7時から午後11時まで営業するということは画期的ですね」
「いや加藤さん、私はお客さんに申し訳ないと思っているんです。本当は24時間営業をやらなければならないのです。だが当社はまだ力不足でそれができない。それが悔しいんですよ」
いま24時間営業は、人手不足などにより時間の短縮が大きな問題となっている。セブン-イレブンにしても例外ではない。だが、同社の原点は間違いなくこの鈴木氏の言葉の中にある。
毎年年末に、親しい新聞記者何人かと鈴木さんを囲む食事会を持っていた。私もその1人で もちろんオフレコである。だがこうした席は、彼の経営に対する考え方に直に接することができる。いまはさすがにないが貴重な機会だった。
鈴木氏には、「お客さんの立場に立って」という考え方が常に真ん中にあった。その軸はいささかも振れることはなかった。24時間営業にしても然りである。
お互いに競争するメーカーを説得して実施した牛乳の共同配送、単品管理の徹底をめざして共同開発したPOSシステムなど、日本でまだ誰も取り組まなかった課題に次々と挑戦したのも「お客さんの立場」からである。
銀行業に参入したとき彼はこう言った。
「誰もが賛成するようなものはだめだ。ほとんどが反対することにこそ取り組む価値がある」
アメリカのサウスランド社(現セブン-イレブン インク)を買収したときは、先方の経営陣にセブン-イレブン ジャパンの考え方を移植するために一歩も引かなかった。
いまアメリカのセブン-イレブンの業績は非常に好調だ。それを率いるジョセフ デピント社長兼CEOは、陸軍士官学校卒という異色の経歴を持つ。
テキサス州ダラスの同社本部で、数年前にテピントCEOにインタビューした。
「このところ業績が好調に推移していますが、その要因をお聞かせください」
「これまで主力だった直営店を積極的にFC店に切り換えています。また日本に倣って本格的なPB商品の開発にも力を入れています。さらに都市部への出店を強化していることも業績に貢献しています」
なおセブン-イレブン インクは先頃、1100店以上のコンビニエンスストアを展開するスノコ社(テキサス州)を買収した。「タンピンカンリ」の基本思想はいまアメリカにも完全に定着している。