第14回 「現場主導の業務改革が柱」(アインホールディングス 大谷喜一社長)

【週刊粧業2020年3月9日号4面にて掲載】

 2018年4月の診療報酬改訂は、薬価の大幅引き下げや、大手調剤薬局に向けた点数引き下げなど調剤薬局最大手のアインホールディングスにとっても非常に厳しいものだった。

 このため2019年4月期決算は、M&Aを含めた積極的な出店により増収となったが、経費率は横這いを維持したものの荒利益率が大幅に低下したことなどで2桁の減益を余儀なくされた。

 大谷喜一社長はかねてより、私とのインタビューでこう語っている。

 「2年に1回の診療報酬改訂は、我々調剤薬局にとって避けて通れない厳しい経営与件です。最大の経営課題は、こうした環境変化を何とか克服して乗り越えることです。むしろ変化をチャンスと捉えて、企業構造を常に変えていくことこそが生き残る道です」

 2014年から導入している現場主導による業務改革、「考える薬局プロジェクト」はアインを大きく変えた。

 「店ごとに異なる環境の中で、調剤薬の在庫をいかに効率よく管理すべきなのか、現場の薬剤師から自主的にスタートした活動でしたが、店数が増えたことで水島利英専務をプロジェクトリーダーとして、いまでは全社を挙げての取り組みになっています。拠点店舗などでは在庫が半分以下に削減されました。このプロジェクトがなければ現在の当社はなかったでしょう。最後に問われるのはやはり『人間力』です。例えば半年前に当社を辞めた人が社内を見たとしたならば、全く別の会社になっているので驚くでしょう」

 大谷社長が最も神経を尖らせている問題が「調剤過誤」である。

 「調剤過誤は我々調剤薬局にとって、あってはならないことです。幸いにも当社はこれまで重篤な調剤過誤はありませんでした。営業会議ではいつも冒頭に調剤過誤を取り上げでおり、どんな小さな過誤でも必ず報告させるようにしています。私自身も大袈裟ではなく、24時間この問題への対応を意識しています」

 調剤薬局事業の新たな成長戦略として注目されるのが、安倍政権の規制緩和政策の一環として可能になった「敷地内薬局」の展開である。

 「総合大病院が敷地内薬局を公募することになり、当社も積極的に応募しています。2019年4月に開設した東京大学付属病院への出店もその一つです。敷地内薬局の出店に際しては、数十名の薬剤師を配置し、高度な専門医療にも対応しなければなりません。対応できる企業は自ずと限られます」

 一方、化粧品を中心としたドラッグストア、「アインズ&トルペ」は、いよいよ本格的な成長期に入ろうとしている。「アインズ&トルペ」の原点となった店は、2003年にオープンした「原宿クエスト店」(東京都渋谷区神宮前)である。

 「創業間もないころ、私は様々な事業を手掛けて、ほとんど失敗しています。ホームセンターにも挑戦しました。ドラッグストアも郊外型を展開しましたがうまくいきません。しかしアインズ&トルペに挑戦したことで道が拓けました。ようやくこの業態で全国展開を目指せる自信がついたのです」

  11月16日には、ヨドバシカメラが大阪駅北口にグランドオープンした大型複合商業施設「LINKS UMEDA」の2階に売場面積178坪の規模で出店した。大阪エリアのアインズ&トルペ最新の旗艦店である。

 アインズ&トルペは2019年4月期で48店となり、売上高も252億円となった。3年後には94店、450億円をめざしている。
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加藤英夫

週刊粧業 顧問(週刊粧業 流通ジャーナル 前会長)

私が週刊粧業の子会社「流通ジャーナル」に入社したのは今からちょうど50年前の昭和44年(1969年)6月だった。この間、国内はもちろんアメリカ・ヨーロッパ・アジアにも頻繁に足を運び、経営トップと膝を交えて語り合ってきた。これまでの国内外の小売経営トップとの交流の中で私なりに感じた彼らの経営に対する真摯な考え方やその生きざまを連載の形で紹介したい。

https://www.syogyo.jp/

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