第20回 「中興の祖」(カスミ 小濱裕正会長)

【週刊粧業2020年5月18日号11面にて掲載】

 カスミは現在、「フードスクエア」「フードマーケット」「フード オフ ストッカー」の3業態を展開している。いずれも非食品の品揃えを最小限に抑えた食品に特化したスーパーマーケットである。

 フードスクエアは、カテゴリー強化型の拠点店である。フードマーケットは標準店で、フードオフストッカーは、既存店を業態転換させた価格訴求型である。この3業態体制を確立させたのが、ダイエー、マルエツの主要役員を歴任して2002年から社長に就任した小濱裕正 現会長である。

 小濱さんとはダイエー、マルエツ時代から交流があり親しくさせて頂いた。それまでのカスミは、茨城県を中心にドミナントを形成していたが、もう一歩特徴が薄いスーパーマーケットだった。この現状を真っ向から否定し、食品に徹底的に特化したスーパーマーケットの業態を確立させたのが小濱さんである。言わばカスミ中興の祖である。

 カスミの創業者 神林照雄元社長にも生前何度も取材した。彼は、お客さまにご奉仕するという信念の経営者だった。

 「私は戦争で一度、交通事故で一度死にかけました。ですからいま生きているのは、お客さまにご奉仕するために生かされているのです」

 何事も無駄はせず、1本のポールペンでも芯を換えていつまでも使っていた。本部も質素なプレハブのままだった。

 実弟で1991年に2代目社長となった神林章夫氏は、東京大学経済学部を卒業して信州大学経済学部教授となり、同学部の学部長を経てカスミに入社した。根っからの学究肌の人だった。

 現在の同社本部は、アメリカの有名建築家に依頼して建てたものだが、その一角には、西友の副社長だった上野光平氏が生前収集した膨大なクラシックレコードの資料室がある。このほか霞ヶ浦の水質汚染問題にはいつも配慮され、その浄化運動に尽力されていた。

 その章夫社長からある日、「加藤さん、アメリカの小売業界を案内してくれませんか」と頼まれた。そこで当時専務だったイトーヨーカ堂出身の遠藤明憲氏と3人でアメリカを回った。

 場所はもう忘れたが、旅行会社がどう間違ったのか、気を利かせたのかは知らないが、何と巨大なリムジンが用意された。これでスーパーマーケットを回ったから目立った。

 ある店では、店長がすっ飛んできた。「あなたたちは、うちの店を買いに来たのですか」。このジョークとも本音ともつかない言葉に3人とも苦笑いだった。

 カスミは現在、藤田元宏前社長、石井俊樹社長の下で、ドミナントの茨城県をさらに強化する一方、新たな商勢圏として、千葉、埼玉両県での展開に力を注いでいる。出店も毎年2桁を目標にしている。またマルエツ、マックスバリュ関東と共に「ユナイテッド スーパーマーケット ホールディングス」を設立するなど、着実な成長を続けている。
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加藤英夫

週刊粧業 顧問(週刊粧業 流通ジャーナル 前会長)

私が週刊粧業の子会社「流通ジャーナル」に入社したのは今からちょうど50年前の昭和44年(1969年)6月だった。この間、国内はもちろんアメリカ・ヨーロッパ・アジアにも頻繁に足を運び、経営トップと膝を交えて語り合ってきた。これまでの国内外の小売経営トップとの交流の中で私なりに感じた彼らの経営に対する真摯な考え方やその生きざまを連載の形で紹介したい。

https://www.syogyo.jp/

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