第22回 「巨大ドラッグストアの神髄」(ウォルグリーン ジョー マークリオ経営戦略部長)

【週刊粧業2020年6月1日号4面にて掲載】

 いまから15年以上前、シカゴ北部郊外のディアフィールドにある「ウォルグリーン」(現ウォルグリーン ブーツ アライアンス、WBA)の本部を訪れ、当時 経営戦略立案を担当していたジョー マークリオ部長にインタビューした。

 訪問した日は雨上がりで、駐車場から本部までの道は一部舗装されていなかったため、靴が泥だらけになったことを覚えている。建物も非常に簡素な作りだった。

 ウォルグリーンは1901年、チャールズ R.ウォルグリーンによってシカゴで創業された120年近い長い歴史を持つ老舗企業である。

 知的で物静かな感じのマークリオ部長は、「うちの会社では親子代々勤める社員も多く、3代続けて働いている社員も結構います」と語る。アメリカでも珍しい存在の企業だ。

 アメリカのドラッグストアは例外なく、調剤が売上の中心であり、軒並み65%前後の構成比となっている。ウォルグリーンも例外ではない。

 同社の大きな転機となったのは1980年代後半から1990年代、スーパーマーケットと2核を構成するストリップモール(NSC)での展開から脱却して、主要交差点の一角にフリースタンディングで出店する「コーナー ドラッグストア」に出店戦略を大きく転換させたことである。

 しかも調剤以外は24時間営業を原則として、ドライブスルーファーマシーを併設した。業界に先駆けてウォルグリーンがこうした戦略を推進するや、ライバルの「CVS ファーマシー」や「ライトエイド」も追随して、現在はこのコーナー ドラッグストアが全盛となっている。

 「ストリップモールの一方の核であるスーパーマーケットも大体がファーマシー(調剤)を扱っていますので、我々ドラッグストアと競合します。ここから脱却してフリースタンディングで展開するようになったことで新しい成長への方向性が見えてきました」

 ウォルグリーンは2014年、株式の一部を保有していたイギリス最大のドラッグストアで欧州最大の医薬品卸でもある「アライアンス ブーツ」の残る全株式を買収して、新たなホールディングカンパニーの「ウォルグリーン ブーツ アライアンス」を設立した。グローバル展開に大きく踏み出したのである。

 続く2015年には、全米第3位のドラッグストア、ライトエイドの全株式を買収する計画を進めたが、「米国証券取引委員会」(SEC)の反対により白紙撤回された。このためウォルグリーンは、ライトエイドの店舗1900店以上を買収する戦略に切り換えて現在に至っている。

 WBAは現在、世界11カ国で1万8750店以上のドラッグストアを展開する一方、世界最大級の医薬品卸として400カ所以上の物流センターを通じて、世界20カ国以上で、24万カ所ものファーマシーやヘルスセンターさらに病院などに医薬品を供給している。

 WBAの2019年8月期決算は、売上高が1368億ドル(約14兆8000億円)、営業利益が50億ドル(約5400億円)に達する超巨大企業である。

 「ウォルグリーンが最も重要と考えている課題とはどのようなものですか」

 「我々が最も重視しているのは、お客さまからの信頼です。当社の薬剤師には、『できるだけ多くのお客さまの顔と名前を覚えるようにしなさい』と言っています。それが信頼に繋がる一番の方法だと考えているからです」
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加藤英夫

週刊粧業 顧問(週刊粧業 流通ジャーナル 前会長)

私が週刊粧業の子会社「流通ジャーナル」に入社したのは今からちょうど50年前の昭和44年(1969年)6月だった。この間、国内はもちろんアメリカ・ヨーロッパ・アジアにも頻繁に足を運び、経営トップと膝を交えて語り合ってきた。これまでの国内外の小売経営トップとの交流の中で私なりに感じた彼らの経営に対する真摯な考え方やその生きざまを連載の形で紹介したい。

https://www.syogyo.jp/

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