第13回 睡眠美容

【週刊粧業2016年10月10日号4面にて掲載】

 近頃、季節はすっかり秋めいており、美容雑誌などでは「睡眠の秋」として『睡眠美容』の特集が増えています。

■睡眠時間の短縮化

 現在の総務省が5年ごとに行っている『社会生活基本調査』によれば、女性の睡眠時間は年々減少傾向にあり、2011年までの35年間で30分減少しています。その背景としては、仕事や家事、趣味に加えて、就寝前のパソコンや携帯電話・スマートフォンの使用が習慣化したことが挙げられます。

 こうした睡眠時間の減少または睡眠不足は、肌荒れや色ムラ、キメの悪化など、肌にさまざまな悪影響を及ぼすことが指摘されており、多くの女性が睡眠は美容に不可欠であると認識しています。しかし実情は、十分な睡眠をとるのは時間的な制約上難しいうえ、かといって睡眠時間を削ってまで美容ケアに時間を費やすのも難しいのではないでしょうか。

■睡眠美容コスメ

 そこで近年、睡眠時間を有効活用して美肌に導くことを謳った商品が、化粧品をはじめさまざまな分野で注目されています。

 化粧品では、エスティローダーが1980年代に発売した「ナイトリペア」が象徴的なアイテムとして知られていますが、関連商品が増え始めたのは2010年代以降のことです。その背景には、睡眠時間の減少に加えて、女性の化粧習慣が以前よりも簡便化し、時短志向になったことが挙げられます。

 すなわち、睡眠美容の「塗って寝るだけ」というコンセプトは、消費者の簡便・時短志向との親和性が高く、睡眠時間の有効活用というトレンドを形成するようになっています。

 その特徴としては、美容液とマスク・パックタイプが比較的多くみられ、いわゆる『肌のゴールデンタイム』(成長ホルモンが一日の中で最も分泌される時間のことで、眠りについてから最初の約3時間)にアプローチし、日中に受けたダメージを修復・再生する機能を謳っています。

 また、睡眠中に潤い成分の浸透力を高め、それをラッピング効果で閉じ込める発想も多くの商品で共通しています。このほか、質の高い睡眠をサポートするための香りによるリラックス効果も重要な訴求ポイントになっています。

■今後の展望

 QOL向上の一環として睡眠への関心は社会全体で高まっており、睡眠美容コスメも今後、その手軽さから家事や育児、仕事などに忙しい30~40代を中心にさらに需要を獲得することが予想されます。

 一方で、課題もあります。睡眠美容コスメの体感は一般の化粧品とあまり大差はなく、他のアイテムで代用が可能な点です。このため今後、需要のさらなる拡大のためには、一般の化粧品との違い(コンセプトだけでなく、香りやテクスチャー、使用方法など)を明確に打ち出しながら、普段使用している化粧品へのプラスオンとして位置付けていく必要があるでしょう。
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松本 竜馬

TPCマーケティングリサーチ(株)マーケティングマネージャー

大阪大学大学院人間科学研究科博士課程修了。社会学(ジェンダー/セクシュアリティ論)を専攻した後、マーケティング調査や化粧品・美容業界に興味を持ち、2007年に総合企画センター大阪に入社。以来、一貫して化粧品・美容領域に特化した市場調査や消費者調査を多数手掛けているほか、化粧品企業や広告代理店などからのマーケティング相談への支援も行っている。

http://www.tpc-osaka.com/

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