【週刊粧業2016年12月12日号10面にて掲載】
ここ数年、資生堂や花王、コーセー、ファンケルなどの大手化粧品企業では、自社の研究開発部門(R&D)に積極的に投資する動きが目立っています。
その背景には、国内の化粧品市場が成熟化して伸び悩むとともに、異業種企業をはじめ他社との競争がいっそう激化していることが挙げられます。このため主要各社においては、研究開発力を強化し、他社と差別化された高付加価値商品を、素早く好タイミングで提供することが不可欠となっています。
■脱自前主義
しかし、自社の知識や技術に頼るだけでは限界があります。そこで近年活発になっているのが、他社や大学などが保有する技術やアイディアなどの知的財産を組み合わせて、革新的な商品を生み出そうとする『オープンイノベーション』(以下OI)です。
このOIは、商品開発の高度化やスピードアップ化、コスト削減などにつながるため、多くの企業が取り組みを強化する意向を持っています。ただ現状は、主に研究開発部門の担当者が個々に対応にあたっていることが多く、組織体制として整備している企業はまだまだ少ないようです。
そのなかで、資生堂は化粧品企業のなかでは比較的早くから取り組みを推進してきました。同社は2005年より脱自前主義を掲げて、2008年にはOIを推進する専門グループを設置。
以降、互応化学工業との連携による「ウーノ フォグバー」をはじめ、ハーバード医科大学などとの共同研究を活かして開発した「アルティミューン」など、数々のヒット商品を世に送り出しています。
■感性価値との融合
こうしたOIによる具体的な成果は、アルビオンなどの他社でもみられるようになり、特に「遺伝子」や「免疫」「幹細胞」といった再生医療の最先端の研究を応用した化粧品が数多く登場しています。
ただ、こうした化粧品が話題になるときは、その画期的な「成分」や「技術」にばかり目が向きがちで、使用感や心理的満足といった「感性・情緒的価値」については、しばしば見落とされています。
例えば、先ほどの「アルティミューン」においては、つい「免疫力を高める」という機能に注目してしまいますが、実際の使用者からは「使用時に感じる香りの良さ」や「肌に塗布した際の使用感触の心地良さ」など、化粧品の感性価値も高く評価されている点を忘れてはならないでしょう。
異業種企業の相次ぐ参入により高機能性を巡る競争が激しさを増すなか、大手化粧品企業ではこうした感性価値との融合を図るべく、脳科学分野でのOIを積極的に推進しています。
これにより、化粧品企業ならではの高付加価値商品やカウンセリング技術を開発し、顧客の満足感・幸福感の向上につなげる狙いです。その点こそ、今後の化粧品市場での成否を分ける鍵となるのではないでしょうか。