第19回 ノープー

【週刊粧業2017年04月10日号5面にて掲載】

 今回は、昨年からSNSを中心に徐々に話題になっている『ノープー』についてご紹介します。

 「ノープー」とは「ノー・シャンプー」の略語として、日本ロレアルが2016年9月に発売した新製品「エクストラオーディナリーオイル ラ クレム ラヴォン」で打ち出したものです。

 もともと「ノープー」は、海外セレブの間でシャンプーをしない洗髪として話題となり、日本でも一部の層から「湯シャン」などの言葉とともに親しまれてきましたが、同社は従来のシャンプーとコンディショナーの併用とは異なる、新しいヘアケア習慣として提唱しています。

 その使い方は、①頭皮を濡らす、②毛先になじませる、③頭皮に塗布し、マッサージする、④しっかり洗い流す、といたってシンプルなものです。一般的なシャンプーと異なるのは、クリーム状のテクスチャーが泡立たない点。その理由として同社は、シャンプーを泡立てる際の摩擦が髪にダメージを与えることに着目しています。

 また、同商品はクレンジング、コンディショニング、トリートメントの3つの機能を1つにしたオールインワンタイプとなっています。このようなシンプルなステップこそが髪や地肌への優しさにつながるだけでなく、洗髪の時間短縮にもつながるとしています。

 クチコミサイトを見てみると、使用前は「本当に洗えているのか」と半信半疑だった人が多いようですが、使用後には「頭皮はすっきりなのに、髪はしっとり・さらさら」と好意的な評価が目立ちます。

 そこには、泡立たせないという目新しさを与えつつも、洗浄力とコンディショニング力を高いレベルで両立した同社ならではの技術力が垣間見られます。そして、「シャンプーの時代は終わった」「ノーシャンプー革命」というセンセーショナルな言葉を用いた同社のマーケティングの上手さがクチコミの拡大に拍車をかけています。

 では今後、「ノープー」という新習慣は根付くのでしょうか? 今のところ他社で追随する動きはみられませんが、通販メーカーにとっては、オールインワンジェルやヘアカラートリートメントといった、時短かつ複合機能を備えたアイテムを求める顧客層との親和性が高い点や、単品でも広告展開をしやすい点で、十分にチャンスがあると思います。

 一方、大手化粧品メーカーにとっては、従来のシャンプーの使用方法を否定することにもなりかねず、単純に追随するには難しい側面もあるかもしれません。

 しかし重要なのは、そうしたトレンド自体を追うことでも無視することでもなく、その背後にある消費者ニーズ(例えば「洗いすぎによる頭皮トラブルが気になる」「時短だけど、頭皮はすっきり、髪はしっとりになる」など)をしっかり汲み取り、自社の商品開発に反映させていくことではないでしょうか。
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松本 竜馬

TPCマーケティングリサーチ(株)マーケティングマネージャー

大阪大学大学院人間科学研究科博士課程修了。社会学(ジェンダー/セクシュアリティ論)を専攻した後、マーケティング調査や化粧品・美容業界に興味を持ち、2007年に総合企画センター大阪に入社。以来、一貫して化粧品・美容領域に特化した市場調査や消費者調査を多数手掛けているほか、化粧品企業や広告代理店などからのマーケティング相談への支援も行っている。

http://www.tpc-osaka.com/

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