【C&T2019年7月号6面にて掲載】
はじめに
NHKのアナウンサーは「ヘアムース」と言わない。資生堂の登録商標だからである。泡状整髪料というらしい。そこまで厳格にルールを守るのかと感心する。
一方で、私たちは便利な暮らしの中で、ルールを守ってどれだけ廃棄をしているだろうか。不燃ごみの中で、中身が残っている化粧品として、口紅、グロス(液体口紅)、マニキュア、アイシャドー、ファンデーション(固体・液体)、化粧水などと共に、それらの容器の材質もプラスチック(硬質・軟質)、ガラス、金属と様々だ。
では、なぜ化粧品を捨ててしまうのだろうか。その理由は、プレゼントや衝動買いで、色が好みではない、使ってみたけれど合わない、イベントのみで使用、余分に購入などらしい。
本誌の読者は化粧品を作って売る立場だが、意外に分別が困る化粧品とゴミについて考えてみたい。
自治体からの分け方1)
埼玉県内の自治体がホームページで公表しているごみの分け方・出し方についての情報の中から、不燃ごみ及び化粧品に関連する記述がある1)。
最初に気づくことは、資源ごみの出す方には「軽くすすぐ」「汚れを落とす」といった記述があるが、不燃ごみについて同様な記述がある自治体は非常に少なく(8自治体:ペンキや油についてはほとんどの自治体が記述している)、汚れが落ちないびんやプラスチック類は不燃ごみとしている自治体があることだ。
次に、ある自治体では資源プラスチック類を分別収集しているため、当然のように分けていたが、県内4割の自治体が資源プラスチック類の分別収集をしていない(3自治体のみプラスチック容器を不燃ごみとして分別)。
それでは、化粧品に関連する分け方についてみてみる。図1に化粧品容器の分け方、図2には、不燃ごみ中の化粧品で特に目立った口紅の分け方についてまとめた。化粧品のびんの分け方については、多くの自治体で説明されているが、約半数の自治体では不燃ごみとして出さなければいけないことがわかる。
ほぼ毎日利用するシャンプー容器についての記述は多くの自治体であり、逆にマニキュアやコンパクト、洗顔料のチューブについての記述は少ないことがわかる。
図1 化粧品容器の分け方
図2 口紅の分け方
また、プラスチック容器は資源ごみまたは可燃ごみとして分けられるため、適切に分けられれば不燃ごみに入ることが少なくなると考えられる。口紅については22の自治体で記述があった。
詳細に記述している自治体は、「口紅は可燃、プラスチック製容器は資源、金属製容器は不燃」というように記述されていた。口紅について記述している自治体でも、容器についての記述のみであり、中身についての記述はほとんどない。但し、各自治体では不燃ごみの記述である。
廃棄の方法
使い残しのある化粧品を不燃ごみに捨てる場合、どのようにするべきなのか。中身を出しやすいものは、出すべきである。液体の場合は、ぼろ布や可燃ごみに捨てる紙ごみに吸い込ませて、可燃ごみに入れれば問題はない。乳液のような場合は、寝る前にぼろ布等の上にびんを逆さまに立てて一晩おいておけばよいだろう。
可能な範囲で取り除くことが大切だ。化粧品の廃棄方法に関わる情報はあまり多くはない。業界団体などの情報として、西日本化粧品工業会のホームページQ&Aにある「化粧品容器の廃棄」2)について、容器の材質に対する識別表示を確認した上で、市区町村のルールにしたがって廃棄を基本としているので、一部を以下に示す。
「エアゾール製品は、できる限り使い切ってゴミに出すことが必要です。使い終わったエアゾール製品(やむを得ず使い切らずにゴミに出す場合も)は、必ず火気のない風通しの良い戸外で、衣服にかからないようにして、シューという音が完全に消えるまでボタンを押し、中身を完全に出し切ってください」
「キャップ(ふた)や噴射のための押しボタン等プラスチックを分別し(容易に取り外せない場合は無理して外さないでください)、各市区町村のルールに従って廃棄してください」
「ガス抜きキャップ付き製品の場合には、製品に表示されている『ガス抜きの注意事項と方法』に従ってガスを排出した後廃棄してください」
規制
一時問題になった洗顔料などに含まれているマイクロビーズ(直径5㎜以下で人体の洗浄等を目的とする固体プラスチック粒子)は、米国前オバマ政権時代の2015年末に「Microbead-Free Waters Act of 2015」が成立し、2017年1月からマイクロビーズを含むリンスオフ(洗い流す)化粧品の製造が、2018年1月からは販売も禁止された。さらに、マイクロビーズを含むスキンケア大衆医薬品についても、本年1月から販売禁止した。
国連環境計画(UNEP)は、2022年までにマイクロプラスチックや海のプラスチックゴミを大幅に減らすためのキャンペーンを行う。
ゴミは化粧品だけではない。国内で購入するレジ袋の年間使用枚数は約300~450億枚で、全ての日本人が1日1枚のレジ袋を使っている計算だ。さらに飲料のペットボトルの消費量も増加傾向にあり、年間1人当たり160本超になる。サンフランシスコ市は14年にペットボトルの飲料水販売を禁止し、その後カリフォルニア、ハワイでもレジ袋を禁止した。
スターバックスやマクドナルドでは、年間10億本を使用するプラスチックストローも廃止の動きだ。世界20カ国以上が規制している中で、日本は地方自治体や業界規制に任されている。焼却すれば地球温暖化の原因の二酸化炭素がでるプラスチックは、大量消費に歯止めをかけることが必要になっている。
おわりに
世界のプラスチックの生産量はこの65年間で約200倍に激増(図3)し、今後20年間でさらに倍増すると言われており、今も毎年少なくとも800万トンが海に流出している。その結果、海に放出されたプラスチックの量は50年までに、全世界に生息する魚の量を上回るとの衝撃の試算が公開された。
日本にはレジ袋やマイクロプラスチックの国の規制がない。私は沖縄でエメラルドグリーンの海を見て生活している。冒頭のNHKとは言わないまでも、各自が「まぁーもぅー」いいかといった廃棄を軸としたライフスタイルから、廃棄ルールを「守る」時にきていると思う。
図3 世界のプラスチック生産量
参考文献
1) http://jsmcwm.or.jp/edit/kurashi/06/050kawasaki.pdf(2019年5月23日アクセス)
2) https://www.wjcosme.jp/qa/index.php?action=artikel&cat=10&id=42&artlang=ja&highlight=廃棄(2019年5月23日アクセス)
3) https://dot.asahi.com/aera/2018090600044.html?page=2(2019年5月23日アクセス)