第41回 『変な』ではなく『ヘンナ』

【C&T2020年1月号7面にて掲載】

はじめに

 昭和の男性アスリートたちがしなかったことに、髪染めがある。1998年のW杯のとき、中田英寿が1人金髪に染めて出場し、プレーでも髪の色でも目立って海外のスカウティングの目に留まる為に染めたと言っていた(図1)。海外の人から見たら、日本人はみんな同じ顔に見えるらしい。


図1 98年FIFAワールドカップフランス大会の中田英寿

 黒人が同じように見えるのと同じだ。実際に、中田はスカウティングの目に留まり海外移籍した。ヘアカラーを「黄色人種に似合わない」と思うことは、完全に過去のことになった。他人からの注目だけではなく、鏡を見て自分に「気分」や「気持ち」が変わるスイッチを入れることにもなる。

 しかし、染毛剤は酸化染料によって毛髪中の化学反応を伴うため、色持ちはよいが皮膚へのかぶれ等が発症することもある。

 そのため、半永久染毛剤の一種でヘナ(図2 ミソハギ科の低木Lawsonia inermis)によって、毛髪にダメージを与えず髪の色を変える製品がある。今回は天然のカラーリング剤として美容室や市販品を愛用されることが多い、『ヘンナ』ともいわれても決して『変な』色素ではないヘナについて考えてみたい。

図2 ミソハギ科のヘナと色素成分ローソンの化学構造

ヘナとその含有量

 ヘナはインド等で自生し、その葉をクレオパトラもマニュキュアとして爪に使っていた。私が住む沖縄では台風に強いことで栽培されている。成長すると木の高さは3~6mの低木となり、葉は長さ3㎝、幅1.5cmほどの楕円形の尖った形になる。

 髪染めとして使う場合、大きく育ちすぎてしまうと染色力が落ちるため、木の高さが1m程に育った状態で収穫する。多年生の植物で株を残せば、また枝葉が伸び収穫が可能で古いものでは数10年にもなる。

 国内では2001年より企業の責任の下で化粧品への配合が認められた。ヘナの葉の中には赤橙色の色素2-hydroxy-1,4-naphthoquinone(図2 以下、ローソン)を酸性下でケラチンと結びつくことが知られている。この色素は、植物成分であるためばらつきがあるが最大2%含まれている。

 ヘナ配合の白髪染めを訴求した市販品12品(参考品2品を除く)のローソン含有量については、パウダータイプやクリームタイプの一部は含有していたが、ほとんど検出されない製品もあり、それらはヘアマニュキュアなどのタール系色素の染料表示があった(図3)。このことはヘナによる染毛と受け取られる表示であり誤認を招く恐れがある。また、仮にローソンは白髪を染めると淡赤から淡褐色になるだけなので、インディゴ(藍の染料)等の植物染料を表示し、配合する製品が多い。

図3 ヘナ色素ローソンの含有量

染毛効果

 市販品12品の白髪を染める効果がどの程度期待できるかを調べるために、白髪割合30%のテスト用毛束を用いて基本的な使用方法に従って染毛した。その結果、染毛性能は低く、白髪の半分くらいが染まったと評価されたのは市販製品12品目中3品目のみであった。

 その中でパウダータイプ4製品について、効果が実感しにくい場合等に「何度か繰り返し使用するか、ペースト塗布後の放置時間を長くする」との記載がある。これらの製品表示に従って、染毛回数を増やして繰り返し使用するか、塗布後の放置時間を長くすると評価が高くなった(図4)

 特に染毛回数を増やすと効果的であったが、ヘナで白髪染めをする場合は、何度も繰り返し使用しなければ効果が実感しづらい結果になった。サロンではこの手技をノウハウとして身に着けている美容師もいる。


図4 条件を変えたヘナ染毛結果

安全性

 シャンプーなどリンスオフを除くヘナ訴求10品目について、永久染毛剤に最もよく使用され、アレルギーの原因物質の可能性があるp-フェニレンジアミンについて、パッチテスト絆で48時間貼付の場合の陽性反応がどれくらいあるのか、またそれ以上あるのかについては表1に示す。
表1 ヘナ製品の48時間クローズパッチテスト陽性(+)反応数

 p-フェニレンジアミンは強い++以上の陽性を示した人もいたが、ヘナ配合品は++以上の強い反応が出たものはなく、また+の陽性反応が出た人の数も少ないことから、安全性が高いと考えられる。永久染毛剤でかぶれ等を起こしたことのある人(34名)ではp-フェニレンジアミンに陽性反応を示した人が最も多く(13名)、ついで製品№1、2、3、6、7が7~10名と多かった。

 他の品目の陽性の人数は0~5名であった。これに対してかぶれ等を起こしたことのない人では、陽性が多かった№7(6名)を除くと他の品目は陽性の数は1~3名と、かぶれを起こした人より少なかった。両群を通じて陽性率が高いのは№7(16名)であった。

 また、永久染毛剤でかぶれ等を起こした人(34名)のうちヘナの使用経験がある人(10名)を除いた24名では、ほとんどの銘柄に陽性反応が出ており、ヘナの使用経験がなくても永久染毛剤でかぶれ等を起こしたことのある人は、今回のような製品でもかぶれ等を起こす可能性があり、使用する際には注意が必要である。

使用性

 匂いについては全ての品目で感じられ、№1~4のパウダータイプが嫌われる強い匂いをもつ傾向がみられた。また、染毛後の毛髪からの移染は1品目を除いて見られないが、一旦色がつくとなかなか落としにくい。

おわりに

 染毛剤やスタイリング剤などヘアケアでは合成原料が多く使用されてきた。近年、合成より天然をソースとした方が市場ニーズは圧倒的に高い。しかし、元々の化粧品素材は天然素材しか使用されていない。例えば平安時代には鳳仙花(ほうせんか)の花で爪を染める爪(つま)紅(くれない)という風習があった。今はニトロセルロース等がその代替になった。

 グリセリンは化粧品原料では植物由来品だが、医薬品は高純度を必要とするため石油由来である。高齢化社会の今、ヘアカラー市場はシャンプーを抜く大きな市場である。消費者の側では選択の幅が広がったことが事実であるだけに、賢明な判断をお願いしたい。

 参考文献
 1)https://page.auctions.yahoo.co.jp/jp/auction/k307516069(2019年11月4日)
 2)http://www.naiad.co.jp/products/naiadhenna/henna100_material.html(2017年12月22日)
 3)国民生活センター報告書ヘアカラーリング剤、独立行政法人国民生活センター編(2007)
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島田邦男

琉球ボーテ(株) 代表取締役

1955年東京生まれ 工学博士 大分大学大学院工学研究科卒業、化粧品会社勤務を経て日油㈱を2014年退職。 日本化粧品技術者会東京支部常議員、日本油化学会関東支部副支部長、日中化粧品国際交流協会専門家委員、東京農業大学客員教授。 日油筑波研究所でグループリーダーとしてリン脂質ポリマーの評価研究を実施。 日本油化学会エディター賞受賞。経済産業省 特許出願技術動向調査委員を歴任。 主な著書に 「Nanotechnology for Producing Novel Cosmetics in Japan」((株)シーエムシー出版) 「Formulas,Ingredients and Production of Cosmetics」(Springer-Veriag GmbH) 他多数

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