第26回 「広がるグローバルネットワーク」(阪急オアシス 千野和利 前会長兼社長)

【週刊粧業2020年7月13日号56面にて掲載】

 阪急オアシスの主力業態である「高質食品専門館」の展開がスタートしたのが2009年である。同年8月に第1号となる「千里中央店」(大阪府豊中市)が開設された。高質食品専門館のコンセプトを固めるために専門のプロジェクトチームを編成して、2年間に渡り国内外の有力スーパーマーケットを視察し、「専門性」「ライブ感」、「情報発信」の3つをキーワードとする新たな業態を創造した。その生みの親が同社中興の祖である千野和利会長兼社長(現顧問)である。

 2001年、千野氏が51歳で阪急百貨店取締役から阪急オアシスに移籍した当時、同社は売上高270億円で大きな赤字を出していた。この同社を、強烈なリーダーシップで立て直し、売上高1200億円で確実な収益性を維持する企業に成長させたのが千野さんである。

 2008年10月、「エイチ・ツー・オー リテイリング」の中間持ち株会社として「阪食」が設立され千野氏が社長に就任した。阪急オアシスを軸とした小売機能に、卸、メーカー機能を持たせた阪食は、高質食品専門館を中心とした新たな成長路線を歩み始めた。その後2016年に阪食は阪急オアシスに商号を変更して現在に至っている。

 同社にとって第2の大きな転換点となったのは2018年4月、JR西日本と提携し、JR大阪駅に隣接する駅ビル「ルクア大阪」の地下2階に開設した新業態「キッチン&マーケット大阪」(略称キチマ大阪)である。開発のねらいについて千野さんは私の質問に次のように答えている。

 「世界の食材を買えると同時に、その場で食べられる、スーパーマーケットとレストランの機能を複合させた都市ターミナル型の新業態を開発しました。売場面積は423坪で、ヨーロッパのマルシェの雰囲気を醸しだす店内は、売場と連動する合計340席のイートインスペースを設けています」

 ワイン&ビアー、パスタ、ピザ、フルーツパーラー、ペジタブル、魚屋の寿司、バーベキュー・石窯ハンバーグ、デリカ、ベーカリー、チョコレート、スイーツといったコーナーの随所でテイクアウトはもちろん、すぐ食べられるスペースを用意している。このほか広いイートインも設けられている。

 「これまでのように、郊外で駐車場を広く備えた売場面積300坪を超える店舗を出店する余地は関西でも限られてきます。このため今後は、与えられた候補地のマーケットの変化に対応した店づくりを進めていきます。その新しい挑戦の代表例がキチマ大阪なのです」

 このほか阪急オアシスは、商品調達面で国内外の有力企業と「ゆるやかなネットワーク」を広げつつある。

 国内では、阪急オアシス、ハローディ(九州)、エブリイ(中国)、サンシャイン(四国)に加え、エイチ・ツー・オー リテイリングのイズミヤと組んでおり、海外では、シティスーパー(香港)、全聯實業(台湾)と提携している。

 「当社は、阪急ベーカリー、阪急デリカアイ、阪急フーズといったメーカー機能も統括しています。こうしたグループ内のSPA機能を活用して、グローバルな卸機能の強化も積極的に推進しています」

 このように、非常に個性あるユニークな「高質食品専門館」の展開に加え、グローバルな商品調達やSPAを活用した卸機能の展開など、阪急オアシスのグローバルネットワークは今後、さらに広がろうとしている。(次回は、ココカラファイン 塚本厚志社長)
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加藤英夫

週刊粧業 顧問(週刊粧業 流通ジャーナル 前会長)

私が週刊粧業の子会社「流通ジャーナル」に入社したのは今からちょうど50年前の昭和44年(1969年)6月だった。この間、国内はもちろんアメリカ・ヨーロッパ・アジアにも頻繁に足を運び、経営トップと膝を交えて語り合ってきた。これまでの国内外の小売経営トップとの交流の中で私なりに感じた彼らの経営に対する真摯な考え方やその生きざまを連載の形で紹介したい。

https://www.syogyo.jp/

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