第71回 スペックではなく、目的で売る

【週刊粧業2022年01月24日号4面にて掲載】

 コンサルティングセールスを基本にしている機器類会社の販売員と話をしたところ、「私は最初に商品のお話はしません。お客さまが何をしたいのか、もともと何がしたかったのか目的から伺って、何をすべきかに落とし込み、最後に商品のお話をします」とのこと。その方がお客さまも「あきらめずに商品を使用してくれて、リピート購入もしてくれる」らしい。確かに自分の買い物行動を振り返ってみても、どんなに良い商品だとデータやスペックを連呼されても、「ああ、そうなの」程度の反応しかできず、たいていは「私には関係ない」と考えて、購入には至らない。

 ところが「いつまでも若々しくしていたいでしょう」や「同世代からうらやましがられることは、うれしいですよね」とか「孫や子供の世代から褒められて、尊敬されますよ」とか、「すっきりとした体形で、動きも若々しくなりますよ」など、様々な私の欲求を刺激されると、ついつい「もしかして」と思ってしまう。つまり美容もダイエットも、それを成し遂げられた時のイメージや夢を描くことが、具体的なアクションの動機付けには、大きく役に立つのではないかと思う。

 化粧品販売も、「どんな目的で」「どのようになりたいか」「そのためにどんな商品で、どんなお手入れ」をするべきかのストーリーをもっと明確にして販売する必要があるのではないか? 商品の効果効能を表示するスペックよりも、適切な使い方を伝達するよりも、まずは「何の目的で、どうなりたいか?」をつかんでいただく必要がある。それがコンサルティングセールスのプロが言う「何がしたいのか、目的から紐解く」ということなのだ。これこそ小売業の醍醐味であり、販売者の喜びではないかと思う。

 マーケティングの基礎を学んでいた若い時代に、『マズローの欲求階層説』を教えられたが、今まさに「生理的欲求」や「安全の欲求」が満たされつつある中で、「自我の欲求」や「自己実現の欲求」など、より高度で、人の心の中まで入り込んだ欲求が大事になると、従来の仕組みでは、細分化されたニーズには応えられない。

 美容についても商品を薦める前に、あるいは使用を促す前に、「何をしたいか」心の奥底にある「私はどうなりたいか」を紐解いて、その目的をかなえる手段としてお手入れや提案商品があるのではないか。つまりお客さまに商品を販売するためには、「なりたい自分をイメージできるような」モデルパターンを示す必要がある。それは仮想の作りものではなく、リアルな状況を示すような生きたモデルパターンでなくてはならない。通販化粧品のインフォマーシャルでも反応率が良いのは、想定客層より少し若々しく、生き生きしたトータルのライフスタイルが垣間見えるような人に登場してもらうと、レスポンス率が良い傾向がある。紙媒体でも本当の顧客で、生き生きとして生活を楽しんでいる人に登場してもらうと同様の結果が出るようだ。

 人は目的を明確にして、自分の望む方向性が決まれば、何かのアクションをスタートさせ、おおよそ3週間実行すると、行動が定着するという理論もあるようだ。それならばまず、化粧品のスペックで訴求するではなく、「こんな女性の生き方をしませんか?」と人生の歩み方や理想のライフスタイルなどで説得して、美容へのチャレンジを始めてもらった方が良いのではないか? そうすることによって単に商品の効果効能だけではなく、「素敵な生活を楽しむための化粧品」ということになれば、パートナーとしての化粧品の価値も上がると思う。
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鯉渕登志子

(株)フォー・レディー代表取締役

1982年㈱フォー・レディーを設立。大手メーカーの業態開発や通販MD企画のほか販促物制作などを手がける。これまでかかわった企業は50社余。女性ターゲットに徹する強いポリシーで、コンセプトづくりから具体的なクリエイティブ作業を行っている。特に通販ではブランディングをあわせて表現する手腕に定評がある。日本通信販売協会など講演実績多数。

http://www.forlady.co.jp/

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