第61回 弱いではなく齢 

【C&T2025年1月号6面にて掲載】

はじめに

 人生100年時代と言われて久しい。若々しさ、美しさは何も若者の特権ではない。私は化粧が肌や髪だけでなく脳も若返ると思っている。2024年に日本は50歳以上が初めて50%を超え、女性だけに限定するとすでに2020年に超えていた。各社ともシニア向け商品がある中で、「弱い」身体でなく「齢」を重ねてもいつまでもハツラツと元気になるための化粧について考えみたい。


スキンケアのポイント

 シニア世代にとって今の季節、乾燥によるかゆみに悩む人も多い。また皮脂の分泌能も減少する。東京医科歯科大学の坪井良治氏は医師の立場からセルフ保湿のスキンケアについて紹介している(図1)

 ポイント① 日本人は入浴が大好きだが、世界的にみるとシャワー浴が主流で、沐浴する民族は少ない。沖縄でもシャワーのみの人が多い。高温での長風呂は皮脂が失われるので、できるだけ風呂はぬるめで短めに(40~41℃ 5分程度)、あるいはシャワー浴でいい。

 汗をあまりかかない環境の人は隔日入浴、高齢者の人は週2回程度でよい。高齢者施設や病院では平均して週2回の入浴が行われているが、臭いや感染などで特に問題になっていない。

 ポイント② 清潔志向による過剰な皮膚の洗浄が悪化要因だ。高齢者は石鹸・ボディソープを使わないか、デリケートゾーンの洗浄に限定し、その他の部位は木綿のタオルで軽く洗う。顔についても水だけで洗うか、化粧を落す時のクレンジングだけにする。

 ポイント③ 入浴後には保湿剤・保護剤を塗る。その際、クリームタイプの白い保湿剤(ヒルドイドなど)ではなく、白色ワセリン(プロペト、サンホワイトなど)やオイル(椿油、オリーブ油)などの油脂系の保護剤の使用を勧める。クリームタイプのものは油分が少なく乾燥の強い人には不向きで水で洗うと落ちてしまう。

 また、界面活性剤が含まれているので薬効だけでなく皮膚表面のアレルギー抗原も皮膚の中に取り込んでしまう可能性がある。白色ワセリンなどの半透明の保護剤はべたつくが、少量を手のひらに広げ、それをなでるようにして全身に薄く塗布する。

 頭皮には透明なオイルがお勧め。保護剤を塗るのは入浴の直後は避けて、体温が少し低下して乾燥する前が適切で、体が暖かい時に塗るとかゆみを感じることがある。

 ポイント④ 衣服は薄着をこころがけ、肌着は必ず木綿で肌に密着しないものがお勧め。化繊の下着(ヒートテックなど)は保温作用が強いためかゆくなる。神経痛に対しては体を温め、かゆみに対しては体温を下げるのが効果的だ。

 ポイント⑤ 室内の湿度を加湿器などで上げる。肌の乾燥を軽減できる。

 ポイント⑥ 十分な睡眠を取るようにする。生活が不規則だとかゆみを感じやすくなる。睡眠前のお酒は睡眠の質を下げるので、食事の時に飲むようにする。お風呂は寝る1時間前までには済ませて寝るまでに体温を下げる。寝る直前に運動をしない。また、スマホやテレビの明るい画面を見ないようにして、気分を鎮める時間帯をつくる。寝つきが良くなると、寝床でひっかく行為が減る。

メイクの悩みと頻度

 WISHLANE取締役の土屋富美子氏によると、シニア世代に多いメイクの悩みが5つあるので紹介する。

 シミを隠しづらい コンシーラーでカバーしようにも、厚塗りになったり浮いて見えたりと、自然に仕上げられない。しかも、年齢を重ねたことでできるシミは薄茶色からだんだんと濃い色に変わっていってしまう。シミに合わせたコンシーラーやファンデーションの使い方を知ることで、濃いシミもきれいにカバーできる。

 ファンデーションがシワに入ってよれやすい ファンデーションがシワやほうれい線に入ることで、よれやすいといった悩みは粉っぽい仕上がりにならないよう粒子が細かいパウダーを使う。シワが目立ちそうな部分に薄く塗り、肌に密着させることで目元や口元をきれいに見せられる。また、乾燥も大きな原因の1つのため、メイク前にしっかりと保湿してよれの防止にする。

 眉毛をきれいに描けない 視力の低下や老眼が進むことで、きれいに眉毛を描けないといった悩みに、眉毛の形に合わせて医療用のタトゥー、アートメイクを入れる。昔は青っぽく変色するベタ塗りのアートメイクだったが、今はとても自然で眉色に合わせて1本1本ていねいに描いたアートメイクが主流。将来介護になったとしても常にメイクしたような眉毛をキープできるのでアートメイクのニーズが高まっている。

 髪色に合ったメイクがむずかしい 白髪が入った髪や白髪染めに合わせたカラーメイクの悩みも、シニアメイクで考えたいポイントだ。自分に合ったアイカラーやブロウカラーを知るために、眉毛サロンに相談する方法を推奨している。

 毎日メイクをする体力がない 毎日メイクをする体力がないという人は、眉毛だけでなくアイラインなどもあるアートメイクや1つで数役をこなすコスメを活用する。

 資生堂が、健常な高齢者の化粧の実態をどうなのかを知るために女性300人(70-74歳、75-79歳、80-84歳 各100人)にWeb調査をした結果がある。


 年齢を重ねるにつれて、徐々に化粧をやめる割合が高くなるが、ほとんどがスキンケアもメイクもしている(表1)。ただ化粧頻度を調べてみると、この年代の半数はメイクをしているが毎日している人は約3割だ(表2)。実際に介護施設内で化粧療法を実施したとき、参加者はメイクを楽しそうにするが、その後、毎日メイクをするようになるかといえば、そんなことはほとんどないらしい。

 メイク行為は、外出や人との交流の機会や頻度によって影響を受け、そういう機会のない女性はメイクをしようという気にならないらしい。化粧、特にメイクは日常生活や生活環境に強く影響を受ける。おそらく今後も高齢期の生活が劇的に変わらない限り、高齢者の化粧行動はさほど変わらないという報告がある。


おわりに

 頭皮ケアも高齢者にとって大切である。「シャンプー=髪の毛のケア」で洗髪と考えられている。しかし、シャンプーの語源はサンスクリット語で「マッサージ」という意味で、本来、髪ではなく頭皮をケアすることだ。「頭皮の汚れを意識して洗う」「皮膚である頭皮を強くこすらない」という意識が大事なようだ(図2)

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島田邦男

琉球ボーテ(株) 代表取締役

1955年東京生まれ 工学博士 大分大学大学院工学研究科卒業、化粧品会社勤務を経て日油㈱を2014年退職。 日本化粧品技術者会東京支部常議員、日本油化学会関東支部副支部長、日中化粧品国際交流協会専門家委員、東京農業大学客員教授。 日油筑波研究所でグループリーダーとしてリン脂質ポリマーの評価研究を実施。 日本油化学会エディター賞受賞。経済産業省 特許出願技術動向調査委員を歴任。 主な著書に 「Nanotechnology for Producing Novel Cosmetics in Japan」((株)シーエムシー出版) 「Formulas,Ingredients and Production of Cosmetics」(Springer-Veriag GmbH) 他多数

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