第19回 クリーンビューティーとポストSDGs(2)

【週刊粧業2025年6月2日号10面にて掲載】

 サンゴやマングローブ林保全のため、育成や植林を促す取り組みが進む。KOSÉの雪肌精ブランドでは、ブランド設立当初から行われているサンゴの育成活動がある。海をきれいにし、野生生物の住処や産卵場所になるサンゴは、すでに70~90%が絶滅の危機にあり、国連が警笛を鳴らしているが、現状ではまだCSR的活動になる。

 マングローブ林に関する取り組みは日本国内にはまだないが、人による開拓などで失われているマングローブ林のホットスポットにはパーム油の主な生産地である東南アジアで、マングローブ保全として現地で植林活動が行われているが、国内企業としての取り組みはまだない。植林活動そのものよりも、化粧品や日用品の原料などによく使用されるパーム油の持続可能な利用を意識することで、強いてはマングローブ保全につながる。

 未来のための協定に中にあるデジタル活用については、クリーンビューティー分野の分野でもすでに進んでいる。QRコードなどを利用したデジタルパンフレットや説明書、店舗での顧客データや売り上げデータ、それらのビッグデータ活用、革新的なデジタルミラーも一世を風靡した。

 化粧品や日用品として印字や封入、貼り付けなどして詳細な提示が求められる成分表や危険物取り扱いの記載などは、最低限必要なものもあるので完全なデジタル化はできないまでも、ICT化によって印刷物の削減や人件費の削減、ごみの削減などにもつながってきた。またステイクホルダーが減ることで、その過程で排出されるCO2の削減や、印刷物においては石油系インクの削減にもなる。

 ただこの石油系インクについては、植物性インクに転換するブランドのものも多くなってきていても、この植物性インクに使われる素材(原料)についても、大豆などトレードオフにならないようにしなければならない。

 企業のCSR活動として、気候変動や生物多様性保全についての取り組みは進んでいる。先ほどのKOSÉの事例もそうだ。しかし、現地の環境問題や生物多様性の保全の視点で、産業(サプライチェーン上)であまり関係のない取り組みが行われているのも事実だ。飲料業界のサントリーでは、山の水を採取していることで、早くから製造活動と山の環境保全を一緒に行ってきた。

 花王では、国内工場のあるエリアが環境省の自然共生サイトとして認定され、生物多様性保全に取り組んでいる。最近公表された研究データでは、自社の土地での環境保全活動を行うことは、気候変動対策にも大きく関係すると報告された。

 CSR活動そのものを否定するわけではないが、産業中で環境や社会に負荷がかかっている部分について対応することがサーキュラーエコノミーにもつながり、本来の意味でのクリーンビューティーになりえる。これらそのものがポストSDGsにつながるのではないだろうか。

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長井美有紀

日本サステナブル化粧品振興機構 代表理事

化粧品業界に長く、早くから「環境×化粧品」を提唱。業界・企業・一般に化粧品の環境・社会課題について解く。サステナブル美容の専門家としても活躍し、主に生物多様性と産業について研究。講演や執筆、大学での講義などで幅広く活躍。

https://sustainable-cosme.org/

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