花王では長年、肌のハリにとって大切なコラーゲンに着目し、SPARC(スパーク、Secreted protein acidic and rich in cysteine)という生体に存在するタンパク質とコラーゲンの関係性についての研究を進め、SPARCが複数の種類のコラーゲン産生に同時に働きかける司令塔としての役割を果たすことを、世界で初めて明らかにした。
肌のコラーゲンは9種類あり、合成と分解を繰り返して健やかに保たれることで、肌のハリにとって大切な役割をしている。そのうち1型コラーゲンは真皮の約7割を占め、太い線維状の形態で、肌の土台を作っている。
一方、4型と7型コラーゲンは肌の真皮と表皮を隔てる基底膜の主要な構成成分で、4型コラーゲンは基底膜を構成する生体分子の約5割を占め、シート状のような形態で基底膜の骨格を作っており、7型コラーゲンは基底膜と真皮をつなぎ止める機能を持っている。どちらのコラーゲンも、真皮から表皮への栄養供給の制御などを行い、健やかな肌を保つ機能を持つ基底膜の形成に重要な役割を担っている。
SPARCは、細胞の増殖や分化、移動などを促進させるといった多彩な機能を持つタンパク質で、肌においては表皮と真皮で作られ、傷が治癒する際に増加することが知られている。
花王グループでは、肌のコラーゲンに対してSPARCが重要な役割を果たしていると考えて研究を進め、2012年には、SPARCが1型コラーゲンの産生を促進することを見出し報告している。
今回は、SPARCの4型と7型コラーゲンへの働きに着目し、SPARCを、培養した真皮線維芽細胞と表皮細胞それぞれに添加したところ、いずれの細胞でも4型と7型コラーゲンの産生が高まることを確認した。
さらに、3次元皮膚モデルにSPARCを添加したところ、4型と7型コラーゲンが基底膜に蓄積し、基底膜の形成を促進することもわかった。これらの知見から、SPARCは複数の種類のコラーゲン産生に同時に働きかける司令塔としての役割を果たすことが、世界で初めて明らかになった。
老化した肌では基底膜の構造が劣化し、ハリやしわなどに影響を及ぼすことが報告されている。
今回、SPARCと光老化との関係性を調べるため、同一人物の紫外線により老化が進んだ部位(光老化)と紫外線があまり当たっていない部位を比較したところ、前者の部位ではSPARCが減少していることがわかった。このことから、光老化した肌ではSPARCの産生が低下し、4型と7型コラーゲンを生み出す力が衰え、基底膜の構造的劣化に関与すると考えられる。
今後も SPARCとコラーゲンの関係性の解明を進めるとともに、この知見を化粧品開発に応用していく。これらの研究結果は第53回日本結合組織学会で発表した。