イオンは中期経営計画で、デジタルシフトを政策のひとつに掲げる。GMSやSMの小売事業ではレジゴー(店内スマホによるセルフ精算)、AIカメラやコード決済の導入など、店舗のDXを推進してきた。
総合金融事業のイオンフィナンシャルサービスはイオンカードの申込や、イオン銀行、保険サービスの相談など、海外を含めて、オンラインによるサービスを充実させている。加えて、健康に着目したアプリをリリースし、顧客サービスの充実や新たな収益源に育成する動きもみられる。
イオンフィナンシャルサービスは総合金融事業の事業持株会社で、イオンクレジットサービス、イオン保険サービスや、イオン銀行、イオン住宅ローンサービス、中間持株会社のAFSコーポレーションなどを傘下に置く。グループ全体の戦略と連動し、リアル拠点以外でも顧客を取り込むためにDXを推進している。コロナ禍の緊急事態宣言等でSC内のテナントゾーンが休業し、イオンカードの申込などリアルで募集できなかったこともあり、オンラインによるサービスを拡充し、DXを加速させた。また事業会社が健康アプリをリリースし、新たなサービスの提供を開始した。
イオンクレジットサービスが21年7月1日、ヘルスケアアプリ「ROUTY(ルーティ)」の提供を開始した。次いで、イオン・アリアンツ生命保険が11月26日、終身医療保険「元気パスポート」の付帯サービスとして、健康増進アプリ「ウエルネスパレット」の提供を開始した。
ルーティはダイエット、美容、ウエルネスパレットは未病をコンセプトとする。イオンフィナンシャルサービスとして、金融サービスの提供にとどまらず、イオンのショッピングモールに来館する顧客の日常生活をサポートする目的でアプリを開発した。WAON POINTの付与や「イオンお買物アプリ」と連携したクーポンの発券などの特典によって、グループ間送客もねらう。
イオンクレジットサービス「ROUTY(ルーティ)」
カード以外の収益源創出も視野に
イオンクレジットサービスは毎日の買物と食生活が密着していることに着目し、健康アプリを開発した。営業企画本部事業開発グループの高浜理美マネージャーは、次のように説明する。
「われわれはカード会社として、お客さまの毎日の買物と食品が結びついていることから、食生活の部分から気を遣って健康になっていただけるように、包括的にサポートできるヘルスケアサービスを開発した。カード事業以外の分野で収益源をつくろうというねらいもある。いまは無料でサービスを提供しているが、今後は有料コンテンツの開発や、このアプリを足掛かりとした有料サービスへの送客によって、収益化も見込んでいる」
ルーティはリリース以来、2回のアップデート、1回のマイナーアップデートを実施した。中心はスマホによる食事記録で、画像解析によって簡単に食事を記録できる。これに基づいて栄養素を解析し、不足している栄養素を補うレシピを提案する。さらにイオングループの強みを生かし、イオンネットスーパーのサイトと連携し、必要な食材を注文することができる。
毎日3回の食事を記録することは難しいが、モチベーションを継続する施策として、「健康チャレンジ」のサービスを提供している。1カ月単位で食事の記録日数や食事以外で歩数、体重の目標を設定し、それを達成するとWAON POINTを進呈する。歩数はアプリで自動的にカウントされる。
21年11月にマイナーアップデートした際には、顧客の目的に合わせて食事プログラムを選択できるコンテンツを追加した。年代や体型などに合わせ、目的に沿ったアドバイスが可能になった。
「当初は男性の1日の摂取カロリーなど、厚生労働省の一般的な基準との比較しかできなかったが、カロリーを減らしたい、筋肉をつけたいなど、個々の目的に合わせたアドバイスができるようになった。主にカロリーと栄養バランスから、筋肉をつけたい方には基準よりも多めにタンパク質を摂取するメニューをアドバイスする。糖質を制限したい方には少なめの基準に設定できるようになっている」(高浜マネージャー)
さらに、ユーザーの反応をみながら、新たな機能を追加していく。
21年7月の段階でイオンカード会員を対象にサービスの提供を開始したが、22年1月7日、非カード会員も対象に本格リリースした。カード会員以外にも門戸を開くことで、26年6月に600万ダウンロードの目標を掲げる。
これまでカード会員に限定してきたことで、「暮らしのマネーサイト」(イオンカードの公式サイト)や「イオンウォレット」(イオンカードの公式アプリ)などのオウンメディアやイオングループ店頭のイオンカードカウンターでルーティを訴求してきた。会員以外に対象を広げたことで、SNS、パブリシティ広告、テレビ番組での紹介など、露出度を高めていく。
カード会員が40~50代が中心であることから、アプリ会員もこの層がボリュームゾーンで、性別では女性7割、男性3割となっている。カード会員以外に対象が広がることで今後、若い世代を取り込んでいく。
「30代ぐらいの子供さんがいるお母さん世代をメインターゲットにしている。子供さんがいて中々、時間がとれないという方でも、ダイエットのために少し歩いてみよう、食事の内容を変えてみようというところからスタートできることに、気づいてほしい。これに合わせたコンテンツを増やしていきたい。ダイエットは一時的に苦しんでやるのではなく、日常生活の中で自然に取り組めるように、アプリによってサポートすることも目指している」(同)
アプリの収益化に向けては、現在、ヘルスケアサービスで求められる有料コンテンツを調査している。
「実際のお客さまの声を聞きながら、どういうものをルーティの中で提供していかなければならないかということを考えている。元々、オンラインレッスンや月額数百円でプラスアルファのアドバイスを受けられるコースを考えていたが、これらに限らず、お客さまが求められるコンテンツを開発したい」(同)
中長期の目標に掲げる600万ダウンロードの達成によって、事業の多角化を視野に入れる。
「最終的な着地として、このアプリを足掛かりとしたプラットフォームのようなものをつくりたい。ほかの健康アプリへの接続や、大規模なプラットフォームになることで、より多くの方に使っていただければ、広告事業なども展開できる。そのようなプラットフォーム化を最終的なゴールとして、様々なコンテンツを追加していく」(同)
イオン・アリアンツ生命「ウエルネスパレット」
健康増進のモチベーションアップを
イオン・アリアンツ生命保険はイオンフィナンシャルサービスがドイツ保険大手アリアンツ傘下のアリアンツ生命の株式60%を取得し、20年5月に発足した。21年11月にイオングループ初の保険商品として終身医療保険「元気パスポート」を発売すると同時に、その付帯サービスとして健康増進アプリ「ウエルネスパレット」をリリースした。
元気パスポートは契約者に年1回、健康診断の結果を提出してもらい、結果を判断して健康支援金を支給することが特徴となっている。健康診断の結果の中で、BMIと血圧の2項目が所定の基準を満たす場合に支給する。ウエルネスパレットは加入者向けの付帯サービスで、他社の保険商品との差別化のツールとなる。営業企画部の松田麻由香アシスタントマネージャーは、アプリ開発の経緯について、次のように説明する。
「イオングループのヘルス&ウエルネスの取り組みとして、健康増進型の保険商品を発売することになり、ご契約者さま向けアプリをリリースさせていただいた。保険のコンセプトが健康増進型なので、健康支援金にとどまらず、健康管理をしていただきながら、こつこつ続けることでアプリのポイントに還ってくることで、他社の同じタイプの保険よりも、使いやすく続けやすいところを目指している」
ウエルネスパレットはスマホを持ち歩くだけで、自動的に歩数が記録される。体重・血圧などを入力することができ、歩数との連動で、消費カロリー、歩行距離などが算出される。
またユーザー同士で性別・年代の属性に合わせたランキングが表示され、モチベーションアップにつなげる。さらに、歩く、記録するというアプリの活用に合わせて、「ウエルネスコイン」が貯まり、イオングループ各社などで利用可能なクーポンと交換することができる。アプリへのログイン、1日の目標歩数の達成のほか、食事や睡眠時間などの記録の入力によって、自動的にコインが付与される。またKencom×ほけん(ケンコムほけん)、pecco(ぺっこ)の外部健康アプリと連携しており、これらを利用してもコインが貯まる。コインはイオンリテール、イオン北海道、イオン東北、イオン九州、イオン琉球の直営売場、ウエルシア薬局、イオンシネマ、スポーツオーソリティ、スリーフィット(イオンリテールのスポーツクラブ)など、イオングループ各社で利用できる。
イオンリテールをはじめとする総合スーパーでは、100コインで100円のクーポンがスマホ画面に表示され、レジで利用できる。
また、他の保険契約者特典もウエルネスパレットで提供しており、全国でスポーツクラブを運営するルネサンスのサービスを保険契約者特別価格で利用できる。ウエルネスパレットのユーザーは保険契約者の6割程度となっている。保険の契約者は男性の割合が多いことから、アプリユーザーも男性が6割強を占める。年代別では20~60代まで、幅広い層に利用されている。
現状は測定した記録の登録に留まっているが、健康関連の動画などを追加し、アプリの機能充実に取り組む。またイオン・アリアンツ生命保険として新しい保険商品の開発を計画しており、共通の健康アプリとしてユーザーの拡大を目指す。