ライオンは、乳幼児期の口腔細菌叢を解析し、乳幼児期の早い段階から大人の口腔細菌叢に近づくことを明らかにした。なお、今回の研究の内容は2021年10月9~11日に開催された「第63回歯科基礎医学会学術大会(オンライン配信)」にて発表した。
具体的には、「大人(乳幼児の両親)が共通して保有する口腔細菌の多くは、乳幼児では生後6カ月頃から検出されるようになり、生後1歳半で約75%の細菌が検出されること」「歯が生え始める生後6カ月頃から1歳半にかけて多様な菌種を保有する乳幼児が増加すること」「その菌種の中には口臭や歯周病に関連することが知られている菌も含まれていること」がわかった。
以上の結果から、乳幼児期の早い段階は大人の口腔細菌叢に近づく重要な時期だと指摘している。
口腔疾患であるむし歯と歯周病は、いずれも歯垢などに潜む細菌が原因で起こり、歯の喪失につながる。むし歯や歯周病の予防は、フッ素による歯質強化や歯垢の除去、殺菌などの方法により行われている。一方で、近年の研究から、口腔疾患に罹患している人の口腔細菌叢は、健康な人とは異なっていることが明らかにされつつあり、口腔細菌叢を整えることがむし歯や歯周病を予防するうえで重要だと考えられるようになってきた。
そこで、口腔細菌叢を整えるためには、細菌叢が形成される乳幼児期を理解することが重要であると考え、同社では次世代シークエンサーによる細菌叢解析技術を駆使し、2015年から乳幼児を対象としたコホート研究を開始した。
そのような中、2019年には親子の口腔細菌叢には共有関係が存在し、乳幼児の口腔細菌叢は、共同生活を続ける両親の口腔細菌叢の影響を受けて形成されることを明らかにした。
乳歯が生え揃う前に、大人が
保有する口腔細菌の約75%が存在
今回の研究では、大人の細菌叢に近づく時期を明らかにすることで、細菌叢形成の観点から口腔ケア開始の目安となる時期の明確化を試みた。
これまで出生直後の口腔に存在する細菌の種類は限られており、その後年月を重ねると菌種が増加し大人の細菌叢に近づくことが知られているが、その詳細な時期は明らかになっていなかった。そこで、大人が共通して保有している口腔細菌に着目し、これら細菌の検出率が増加する時期、乳幼児期の早い段階にはどのような種類の菌が検出されるのかを調べた。
2015年6月~2017年1月までに子どもが生まれた家庭のうち、調査参加に同意した55組の両親と子どもを調査対象とした。調査開始時の父親の平均年齢は32歳(年齢幅23~45歳)、母親の平均年齢は30.7歳(年齢幅25~40歳)だった。
子どもたちからは、生後1週間、1カ月、3カ月、6カ月、9カ月、1歳、1歳半、2歳、2歳半、3歳時に計10回唾液を採取し、両親からは、子どもが3歳になった時点で父親、母親それぞれの唾液を採取し、次世代シークエンサーを用いて各サンプルから口腔細菌由来の遺伝子を読み取り、細菌叢の経時変化を解析した。
解析では、大人が共通して保有する口腔細菌として、調査に参加した全ての父親、母親それぞれ8割以上から共通して検出される69種の細菌を抽出した。この69種に関して、各月齢において検出された細菌の割合を調べた結果、生後6カ月頃から検出率が増加し、前歯が生え揃い始めた生後9カ月で50%以上、奥歯が生え始めた生後1歳半で約75%の細菌が検出された。すなわち、乳歯が生え揃う前の時点で、大人が共通して保有している口腔細菌の約75%が子どもの口腔に存在していることがわかった。
続いて、69種の各細菌が検出された乳幼児の割合(保有率)を月齢別に調べた結果、多くの細菌は生後6カ月から1歳半にかけて保有率が増加しており、多様な菌種がこの時期に定着していることが示唆された。
以上の結果から、大人が共通して保有している口腔細菌の多くは、乳歯が生え始める生後6カ月頃から検出されはじめ、乳歯が生え揃う前の生後1歳半には約75%の細菌がすでに存在しており、この時期に大人の口腔細菌叢に大きく近づくことが明らかとなった。
この時期に検出されはじめた細菌の数や割合が増加することで、口臭の原因となる物質を産生されると考えられることから、「乳幼児期の早い段階からオーラルケアを開始し、継続していくことが望ましい」(同社)としている。