花王は、皮脂から採取した皮脂RNAを解析することで体や肌のさまざまな状態を把握する「皮脂RNAモニタリング」を進化させ、皮脂RNAを常温で安定的に保存・輸送できる技術を構築した。
これにより、自宅を含むさまざまな場所での皮脂RNA採取が可能になり、皮脂RNAモニタリングを活用できる場面が拡大する。
この技術を用いて、ヘルスケアシステムズとともに、生活者が自宅にいながらにして健康状態の把握を可能にする郵送検査サービスの開発を進め、2022年内のサービス提供を実現すべく、実装に向けたテストに取り組んでいる。
花王は、皮脂に人のRNA(リボ核酸)が存在することを発見し、そのRNAを網羅的に分析する独自の解析技術「皮脂RNAモニタリング」を構築することで、体や肌のさまざまな状態を把握できる可能性があることを見出してきた。
皮脂RNAの採取は簡便で皮膚を傷つけないというメリットがあるが、採取後の皮脂RNAは常温で放置しておくと、皮膚表面に存在し皮脂とともに採取される分解酵素により分解されてしまう。安定した分析結果を得るには酵素の働きを阻害して皮脂RNAの分解を抑制する必要があり、これまでは採取後直ちに超低温で保存する方法を用いていたが、この方法では、採取場所や機会が限られてしまうという課題があった。
しかし、採取した皮脂RNAを常温で保存・輸送することが可能になれば、自宅を含むさまざまな場所での皮脂RNA採取が可能になり、多くの人に皮脂RNAモニタリングを活用した情報提供が可能になることから、今回、ヒト皮膚上に存在しているRNA分解酵素に対する皮脂RNAの保存安定化技術の構築を行った。
皮脂RNA保存安定化技術の
構築、検証を経て実装化へ
RNAを分解する酵素は、働く際に水を必要とする加水分解酵素であることが知られている。そこで、活性阻害剤としてRNA分解酵素の立体構造を変性させるグアニジン塩酸塩と、水を短時間で吸湿する乾燥剤を選抜し、ヒト皮膚細胞由来のRNAの常温保存に対する有用性を検証した。
成人6名(男性5名、女性1名)の顔からあぶら取りフィルムで皮脂を採取し、さらにヒト皮膚細胞由来のRNAを一定量添加して、-80℃(超低温保存)、37℃で保存安定化剤(グアジニン塩酸塩と乾燥剤)のあり、なしそれぞれの条件で3日間保存した。
RNAの残存率を定量的に評価した結果、-80℃と比較して、37℃で保存安定化剤がない場合にはRNA量が検出限界付近まで低下したのに対して、保存安定化剤がある場合には-80℃とほぼ同等にRNA量が維持されていることが明らかとなった。この結果より、グアニジン塩酸塩と乾燥剤を用いることでRNAを常温でも-80℃と同じくらい安定して保存できることが示された。
花王は、この技術を応用し、皮脂RNAを採取後、常温で保存できる容器を開発した。150名の成人男女(男性76名、女性74名)を対象に、実際のサービスを想定した自宅での皮脂採取、常温輸送のテストを行った結果、すべてのケースにおいて皮脂RNAの分析に成功した。これにより、皮脂RNAを常温で保存・輸送し、安定した分析結果を取得できる可能性が示された。
これらの検証結果を踏まえ、名古屋大学発ベンチャーで未病をテーマにした郵送検査キットの開発、販売を手掛けるヘルスケアシステムズと共同で、この皮脂RNAモニタリング技術を用いた郵送検査サービスの実装化に向けた開発をスタートした。
すでに実装に向けたテストに取り組んでおり、生活者が自宅にいながらにして健康状態の把握を可能にする郵送検査サービスの2022年内の提供を目指す。