大きな決意もって飛び込んだ広報で「追い風を吹き込む」
酢谷香織氏は、2010年4月に新設されたマンダム「商品PR室」の初代室長に就任し、商品と消費者をつなぐ情報発信の要を担う。主に企業広報を担当する「広報IR室」での在籍期間を含め、広報キャリアは約10年に及び、名実ともにベテランの域に突入しつつある。
入社は1979年。翌80年には結婚を機に退社。本人の意志とは裏腹に、当時の社会環境が“継続就労”を許さなかった。しかし、会社方針の変革とともに再入社を強く求められ、81年にカムバックを果たす。
宣伝担当の部署に身を置く傍ら、社の命運をかけて取り組んだ女性化粧品の強化プロジェクトに参加したのが、第1の転機となる。このプロジェクトを経て生まれた同社史上初の女性コスメブランド「ピュセル」(当時)がヒットを記録。商品開発の醍醐味を味わった酢谷は、自身の意向により「商品開発部」に異動することになった。
異動した1985年以降の12年間のうちに、酢谷は女性化粧品の開発リーダーとして数々のヒット製品を生み出した。そして1993年、ヘアケアを中心とした女性コスメタリーブランド「ルシード エル」をデビューさせる。文字通り、酢谷はその生みの親となった。
酢谷は商品開発を“勝負”に例える。「メーカーにいる以上、自分たちの企画した商品が売れるという醍醐味は、この世のモノとは思えない嬉しさがある」という。
ただ、「あかんときはめちゃめちゃつらい」という苦難も味わった。それは「生活者に否定された、つまり私の負け」。酢谷にとって商品開発は、切っても切れない関係なのかもしれない。
その後、第2の転機を迎える。通販事業部に在籍していたときのことだ。「女性スキンケアがうまくいかない」という大きな課題に対し、男性上司と意見が対立。そこで、特別予算を組んで女性社員だけで実態調査に乗り出した。
そして、女性がスキンケア製品を購入する際には、「効果・効能だけではなく、事前情報が大事。しかも、そこには口コミや企業イメージ、広告などあらゆるファクターがある」という結論を導き出す。
2001年、酢谷が広報IR室に異動した理由はそこにあった。女性化粧品が日の目を見るための最善策として“広報”を選んだのだ。
広報と一口にいってもその業務は多岐に渡る。酢谷がモットーとするのは「真実を伝えること」。単なるセールスではなく、製品特徴を細部にわたって把握した上で、ときには「あちらの製品の方が、あなたの肌には合っていますよ」と促す。そんな正直な伝達を心掛けている。
また、「あらゆる場所に追い風を吹き込む」ことの重要性も強調する。例えば、TVCMが効果的に作用するように事前情報を発信し、CMを投下した際には商品がすでに店頭に並んでいるという仕組みづくりが、それにあたる。
それは、商品が“開花”する瞬間に合わせ、消費者というマーケットの中に情報という“種”をまき散らす「地ならし」の作業と言い換えられるかもしれない。情報をどう伝播させ、拡散させるか。「その作戦を組むのがPRの仕事だ」。
女性化粧品の成長を見届けることを広報業務を選んだ直接的な理由とした酢谷の目に、女性スキンケアブランドの「バリアリペア」や「クレンジングエクスプレス」の好調ぶりはどう映っているのか。「まだまだこれからやるべきことは沢山ある」。満足とはほど遠いとでも言いたげな力強い目は、しっかり前を見つめていた。(文中敬称略)
●酢谷 香織(すたに かおり)
兵庫県出身、在住。デザイン系の学校に通い、個展を開催するなど若い頃から“絵描き”をライフワークとする。現在も身近な風景を水墨画で切り取る。休日はスポーツジムでの水泳、自宅での野菜栽培のほか、24歳になる娘とショッピングやコンサート鑑賞でリフレッシュ。ジム通いは、シャワールームや更衣室での“市場調査”も兼ねる。
※マンダム西村社長、「ギャツビー」などのアジア戦略に意気込みはコチラ
この記事はC&T 掲載
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