カンタンに言うと
花王は、独自開発したアニオン界面活性剤「バイオIOS」が、水道水で希釈した際に濃度依存的に異なる形状の集合状態で存在することを発見した。
界面活性剤は洗浄、表面改質など様々な機能を持つが、機能発現には界面活性剤の水中での集合状態が重要であるため、それぞれ別の種類の界面活性剤を使用することが一般的だった。今回の発見から、バイオIOSは衣類の洗たく場面において、特定の条件のもと、1つの界面活性剤で洗浄と表面改質の両方の機能を発現できる可能性が示唆された。
界面活性剤は、1つの分子の中に、水になじみやすい親水基と油になじみやすい疎水基(アルキル鎖)の2つの部分を持つことで、水と油を混ぜ合わせたり、汚れを落としたりすることができ、洗浄剤の主成分として広く活用されている。しかし、世界人口の増加などにより界面活性剤の需要が増加していること、界面活性剤の疎水基の原料となるヤシやパームの生産可能地域が限定されることから、環境問題や人権問題などの課題が指摘されている。
そのような中、花王は2019年に、パームから採れる油の中でも生産量が多く、かつ、これまでに洗浄用界面活性剤原料とすることが難しかった食用と競合しにくい固体部分を使った独自の界面活性剤「バイオIOS」を開発した。バイオIOSは、原料に由来する長いアルキル鎖(C16~C18)と、その中間部に親水基を有するという特異な構造をしている。これにより、基本特性である界面活性(水にも油にもなじみやすい)と水溶性(水に溶けやすい)を高いレベルで両立できるという特徴を持つ。
界面活性剤は、水中で様々な形状の集合状態で存在し、その形状によって発現する機能が変化する。たとえば、界面活性剤が水中で球状の集合体(ミセル)として存在していると洗浄力を発揮し、二重膜のカプセル状の集合体(ベシクル)を作ると、表面に付着しやすくなり表面状態を変化させることができる。界面活性剤が水中でどのような形状で存在するのかは、界面活性剤の種類や、水中での濃度に依存することが知られている。
衣料用洗浄剤には、優れた洗浄性からアニオン界面活性剤が使われている。しかし、実際の洗浄場面で使用する水道水には、カルシウムイオンなどが含まれているため、その影響を受けて、しばしば洗浄性が低下してしまう。花王は、アニオン界面活性剤の一種である「バイオIOS」がカルシウムイオンを含む水中でどのような形状で存在するのかの本質解明研究を進めることで、バイオIOSに特有の新たな機能を発見した。
日本の水道水と同等量相当のカルシウムイオンを含む水に、アルキル鎖の炭素数が18のバイオIOS(C18IOS)を様々な濃度で希釈し、その挙動を解析した。その結果、C18IOSは、濃度が高い領域でミセルを形成するだけでなく、ある特定の濃度領域では、ベシクルを形成できることが明らかになった。アニオン界面活性剤が水道水中に含まれるカルシウムイオンを活用してベシクルを形成することはこれまでに報告がなく、さらに1つの界面活性剤が水道水中の希釈濃度によってミセルとベシクルという異なる集合体を形成することも非常に特異的な現象だという。
ベシクルは一般的に物質の表面上に二重膜を形成できることから、C18IOSが形成するベシクルが表面へ付着する様子を高速原子間力顕微鏡で観察した。
その結果、C18IOSによるベシクルは、極めて短時間に表面を均一被覆できることが明らかとなった。この結果は、洗たく中に衣類表面を改質できる可能性を示している。
花王は今回、独自開発したアニオン界面活性剤「バイオIOS」が、水道水中でベシクルを形成できること、このベシクルが表面に付着して表面状態を改質する機能を持つことを発見した。
従来、表面改質に用いる界面活性剤は洗浄には使いにくく、洗浄に用いる界面活性剤は表面改質には使いにくいことが知られている。今回の研究より、バイオIOSは特定の条件下で、水道水中の成分を活用することでミセルとベシクルの両方を形成できることが明らかとなり、1つの界面活性剤で洗浄と表面改質の両方を実現する可能性が示された。
この記事は粧業日報 2024年5月13日号 3ページ 掲載
■日本の化粧品産業が発展するために必要な取り組みとは~欧米メーカーに先んじてある領域で大きなイノベーションを■花王、バイオIOSが洗浄と表面改質の機能を併せ持つことを発見■コーセー、ドジャースと複数年のパートナーシップに合意■資生堂、女性が活躍する会社 BEST100にて3年連続総合1位を獲得■資生堂、執行役体制の変更・人事異動
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