今回は、セレクト系のアパレル企業A社の事例をもとに考えてみたいと思います。
アパレルのなかでも、ユニクロのようにある程度値頃感のある商品をセルフでお客さまに買い物していただくパターンと、少々価格の高い商品をしっかりと説明した上で買っていただくパターンがあるわけですが、A社はどちらかというと後者の部類に入るでしょう。
すでに日本全国にかなりのショップを展開しており、店長のスキルやあるいは販売員のスキルによってショップの業績にバラつきが出てきていることを課題として捉えていました。
A社の人事担当者も、「かなり順調に業績を拡大していくなかで、店長の店舗管理といったマネジメント業務から、接客の仕方といった点に至るまで、その殆どをほぼ現場に任せながらここまできた」といった話をされており、まず現場で行なわれている業務の整理を早急に行なう必要がありました。
「現場はどんな考え方のもとにどんな業務を行なっているのか」を明らかにするために、フルタイムのショップ調査を実施しました。これは、とある1日のオープンからクローズまで、すべてのスタッフがどのような動きをしているのかを時間単位でチェックする手法です。もちろん、業績の良いショップから悪いショップまで複数のショップを対象にしますし、1週間のうち少なくとも3日間位は調査日として忙しいときと暇なときの違いも確認しました。
調査データを分析すると、業績の良いショップは総接客時間が長いことがわかったため、調査員の定性(データとして表れない)情報を確認すると、非常に面白いことがわかってきました。
それは、「業績の良い店舗はお客さまへの声掛けが圧倒的に早い」ということです。皆さんからすると当たり前の話に聞こえるかも知れません。しかも、そんな基本的なことだったら、全ショップで素早い声掛けを徹底すれば良いだけの話では? と思われるかたも多いでしょう。確かにそうなのですが、声掛けが遅い店舗にもやはり理由があるのです。
「自分のペースでゆっくり見たい」というお客さまの声が圧倒的に多いことも事実としてあり、早く声掛けをしてしまったがために、お客さまに立ち去られるような経験をしている販売員も多いことから、タイミングを見計らって声掛けをするようにしているそうなのです。しかし、この「タイミングを見計らって」というのは、言葉にするのは容易いですが、実際に「ではベストのタイミングはいつか」というと、そこはなかなか明確にはなりません。
「ひと通り売場を回遊してもらった段階」ということかも知れませんし、「立ち止まって商品を手に取った段階」ということかも知れませんし、結局ベストのタイミングはわからないわけです。
では、声掛けが早いショップではどうかというと、このように考えています。お客さまは「何か良いものがあれば」といった気持ちで、良いもの探しをしているのでそのお手伝いをしてあげるために気軽に会話できる関係を早く築いてあげた方がいい! だから、早い声掛けにも工夫があります。
「こんにちは、今日はお仕事の帰りですか?」。洋服の話よりも、まずは普通に会話を交わすことでお客さまは話をしやすくなるというわけですね。「自分のペースでゆっくり」は、お客さまが興味のないことまで話し続けるような販売員への不満がそう言わせているだけなのかも知れません。
川原慎也
(株)船井総合研究所 東京経営支援本部 部長 グループマネージャー
1998年船井総合研究所入社。1兆円以上の大手企業から社員3名の零細企業に至るまで、企業規模や業種業態を問わずに戦略実行コンサルティングを展開するという同社では異色の経験を持つ。「視点を変えて、行動を変える」をコンセプトに、戦略策定段階では「お客さまとの約束は何か」→「約束を果たすためにやるべき仕事は何か」を考え抜こう、計画策定段階では「計画が頓挫する可能性の対処策」を考え抜こう、実行段階では「勝たなきゃ組織一体化しない」から“勝ち”を積み重ねる階段を考え抜こう、と経験に裏打ちされた“視点”への刺激が散りばめられる。最近は、「営業戦略の落としどころは営業マンの行動配分」「断れない提案」「新規開拓一点集中」、等の“視点”の提案を始めている。
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