【週刊粧業2014年11月24日号4面にて掲載】
かつて化粧品業界で「制度品メーカー」という言葉が通じた頃、そう呼ばれる大手化粧品メーカーのマーケティング担当者から、「シーズンごとのキャンペーンでの売上高は、上位3社で比率が決まっていますからね」と言われたことがある。
私ははじめ「?」と、意味が解らなかった。彼が言わんとしていたことは、「店頭販売上位3社のシーズンごとの広告金額(=広告量)投下比率が決まっているので、それに応じた売上高になる」ということだったらしい。
当時私は独立したばかりで、大切な得意先に反論はしなかったが、「そんなことだれが決めたのだ。広告の投下金額だけで売上が決まるとしたら、毎日必死で商品開発や販促案を考えている我々は、何の役に立つと言うのだ!」「大きいところを小さな会社が蹴散らしてこそ面白いのではないか!」「売上高はお客様の反応が決めるのだ」と心の中で憤りを感じていた。
あれから30年近くたって思うことは、「制度品メーカー」という言葉は死語のようになり、いまや化粧品業界の若手には通じない。併せて「店頭販売上位3社」も、かつてのように強大なシェア率を誇っている訳ではない。相変わらず規模は大きいが、多少の差はあるものの業績だって目を見張るほどではない。
そのように考えると、企業も人間と同じで「慢心」すると、途端に足元をすくわれ、下り坂を転げ落ちるのかもしれない。それに気が付いた時は、思いがけないような早いスピードで落ちる。それだけお客様は簡単に情報を手に入れられるようになり、購買行動の変化が早くなったのではないかと思う。
当時、まだ萌芽期であった「通販化粧品」は、私が多くの会社のお手伝いをさせていただいたこともあり、「この販売形態はもっともっと伸びるのではないか」と思っていた。そしてその通りに、通販化粧品会社はあれよあれよという間に業績を拡大し、新規参入も相次いで、今や店頭販売メーカーと同様の「化粧品ブランド」としてお客様に認識されるようになった。10~20年で年商何百億円という企業も多く、規模もたいへん大きくなり、そのうち化粧品販売業態の下剋上が起こるのではないかと思うほどである。
ところが最近の統計では、通販化粧品の大手が苦戦しているらしい。
理由はいろいろあると思うが、最近いくつかの通販化粧品関連のセミナーに参加して感じたことは、「かつての制度品メーカーと同じように、まず数字で語ることが多くなった」ということである。レスポンス率やCPR、CPO、ROIまで、ことごとく数字が先に語られる。
ある会社の幹部は「数字で評価できないものはビジネスではない」とまで言い切る。御多分に漏れず、私も数字で説明する方が説得力が増すので、ついつい数字で話してしまうことが多い。「通販会社は統計のビジネス」とも思っている。ただし、商売はそれだけではないと思う。
なぜ通販化粧品の商売をするのか、その「思い」を最も大切にしなければ、商売は成立しないし、数字だけで判断することは、「テクニック」が優先し、「いつか来た道」のように『慢心』に通じるのではないかと危惧してしまう。
鯉渕登志子
(株)フォー・レディー代表取締役
1982年㈱フォー・レディーを設立。大手メーカーの業態開発や通販MD企画のほか販促物制作などを手がける。これまでかかわった企業は50社余。女性ターゲットに徹する強いポリシーで、コンセプトづくりから具体的なクリエイティブ作業を行っている。特に通販ではブランディングをあわせて表現する手腕に定評がある。日本通信販売協会など講演実績多数。
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