【週刊粧業2015年7月20日号5面にて掲載】
皆さんこんにちは。公認会計士の五藤です。
前回(第13回)では従業員が主体となって行う人件費不正について取り上げました。今回は人事部員や一定の権限を持つ管理職によって行われる事例についてご紹介します。
従業員レベルの手口とは異なり、人事部員や管理職が関係することで人事データの改ざん等、情報の辻褄を合わせるような手法で行われる可能性があり、より発覚しにくくなることがあるため、注意が必要です。
〈不正事例〉
①架空人件費の計上
人事部担当者Aは、既に退職している従業員Bと結託し、人事データ上は引き続き在籍しているように人事データを改ざんした。人事データに基づき給与は従業員Bの口座に振り込まれており、これを人事部担当者Aと従業員Bで横領していた。(図表)
②固定給与の上乗せ
人事部担当者Cは自身の給与マスタに登録されている固定給与情報を改ざんし、通常より上乗せした給与を受け取っていた。
〈対応策〉
上記はともに人事データの改ざんに起因するものです。このような不正は、人事情報にアクセスできる権限を持つ人事部員や特定の管理職が関与することで行われる可能性があります。
給与の支払いは通常はほとんどが口座振り込みのため、社会保険料や税金等、外部が関係する要素があるため通常の正社員を架空従業員として利用することは難しいと考えられますが、例えば少額の給与しか発生せず、また出入りの多いアルバイトやパート等については注意が必要です。
また、人事担当者が関与した場合には社会保険料や税金の処理についても意図的に操作することも考えられます。
有効な対応策としては、人事マスタや給与マスタの定期的な見直しが挙げられます。
①については、タイムカード等を利用した勤怠状況や勤務年数の確認等することで人事マスタを定期的に見直し、不自然な従業員情報がないかを確認することが有効な手段と考えられます。
②については、給与テーブルに沿った固定給が登録されているか、固定給の推移を確認して金額及び時期の観点で不自然に昇給している従業員がいないかを確認することも有効です。またどちらも、人事マスタの登録・削除に関する業務に関するモニタリング(登録情報のダブルチェック・上長の承認行為等)を強化することで、意図的な操作を未然に防ぐ仕組みを構築することも必要です。
〈まとめ〉
今回ご紹介したような不正事例は、特定の立場の社員が関与することで発見が難しくなることがあります。上記のような内部統制体制を強化するとともに、一定の権限を持つ社員には特にコンプライアンス意識の向上に取り組むことも必要になります。
私の担当回では、3回にわたり人件費に絡む不正を取り上げました。会社の規模が大きくなるにつれて、従業員数の増加や雇用形態の多様化等により複雑になることでより発覚しにくくなります。みなさんの会社でも一度見直されてはいかがでしょうか。