第48回 KY、JK、MMではなくZ

【C&T2021年10月号7面にて掲載】

はじめに

 私は仕事の拠点が大学にあるため、学生と接する機会が多い。彼らは小学生の時からYouTubeを見て育ち、子供の頃、我が家に白黒テレビがやって来た私の時代とは違う。

 パソコンではなく、スマホやiPadを用いて提出レポートの作成にとどまらず、漫画を描いたり作曲したり自由に使いこなす。なぜなら「マウスを使うより指の方が早い」かららしい。

 変わりゆく消費文化の中で、その先頭にいたのはいつも若者であり、彼らを理解することは、現在の消費文化そのものの理解に繋がる。

 昨今、若者を捉える括りとして、「Z世代」という言葉はメディアで取り上げられることがある。しかし、そもそもなぜ「Z」と彼らは呼ばれているのだろうか。直接聞いても彼ら自身は「Z」を知らない。

 若者言葉のKY(空気読めない)でもJK(女子高生)でもMM(まじむかつく)でもない「Z」の由来を探り、彼らと接点を持とうとしている美容室事情ついて述べてみる。



ジェネレーション

 Z世代とは、日本やアメリカなどにおいて概ね1990年代中盤から2000年代終盤までに生まれた世代のことである 1)。カナダ統計局の場合には1993年生まれ以降を、アメリカ心理学会の場合には1997年生まれ以降を指すなど、定義は厳密に決められているわけではない。

 何年生まれまでを指すかについても、2010年頃とされる場合や2010年代序盤から中盤とされる場合もあり流動的である。ここではまず現代社会を次の5つの世代に分けてみる(図1)2)。

 ①Silent Generation(伝統主義者世代)=1928–45 
 年ごろの生まれ
 ②Baby boomers(ベビーブーム世代)=1945–64 
 年ごろの生まれ
 ③Generation X(X世代)=1965–80年ごろの生ま
 れ
 ④Generation Y(Y世代)=1980–95年ごろの生ま
 れ
 ⑤Generation Z(Z世代)=1995年以降の生まれ



 アルファベットの世代の分類は、X世代が始まりになる。「崩れ落ちる兵士」で有名になった戦争写真家ロバート・キャパ(Robert Capa、図2)が、第2次世界大戦後に成長した若者をテーマにしたフォトエッセイに「Generation X」というタイトルを付けたことが始まりとされる。

 当時の人たちにとって戦後世代が『未知の世代』だったことからXとつけたらしく、これが次第に人口統計学やマーケティングの用語としても、アメリカから世界に広がっていったのである。

 X世代の次の世代である1980年~1995年頃に生まれた『ポストX世代』のことを、アルファベット順になぞってY世代と呼ぶようになる。

 この世代は2000年代に成人・社会人になることから「ミレニアル世代」とも呼ばれ、物心ついた時にはインターネットの環境が整っていた。

 Y世代がその新しい技術にいち早く適応していった世代であるが、インターネットが普及した後に生またZ世代は、95年生まれである背景もWindows95の登場によってインターネットが当たり前に使用できるようになったという点になる。



美容室とZ世代

 今まで美容室業界は20代後半から40歳以前のY世代が集客ターゲットの中心となることが多かったが、時代の流れとともに10代から20代前半のZ世代へと徐々に移行しつつある。

 そこで昨年9月に資生堂プロフェッショナルは、年間4回以上美容室を利用しているZ世代の女性(25歳未満)を対象に調査を実施している 5)。

 コロナ禍での美容室の利用について、Z世代の女性にどのような変化が起きたのか。

 「新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、美容室へ行く回数に変化がありましたか?」と質問したところ、半数以上の方が『減った(55.8%)』と回答した(図3)



 そこで、「美容室で1回にかける金額に変化はありましたか?」と質問したところ、7割以上の方が『変わらない(73.6%)』と回答したものの、『増えた(14.0%)』との回答がある(図4)

 では、「具体的に何にお金をかけているのか教えてください(上位2つ迄)」と質問したところ、『ヘアカラー(65.5%)』と回答が最も多く、次いで『トリートメント(51.7%)』『カット(32.2%)』『縮毛矯正(12.6%)』『パーマ(4.6%)』と続いた。

 この調査から、コロナ禍のため濃厚接触を避け、美容室に行くことをためらっている人が多く、1回の施術を丁寧に行いたいというマインドになる。

 また、髪のケアが行き届かず髪のダメージが増えてしまった人が多く、1回の施術に使う金額が増えるのかもしれない。

 これからの時代を担うZ世代の客層を増やすため、美容室も時代の変化にあわせて集客方法を変えていかなくてはならない。彼女たちは情報収集から拡散まですべてを違和感なくこなしていける、まさにデジタルネイティブ世代である。

 その分、プライバシーの保護に関する意識が高く、自分の価値観に合ったものを追求する傾向が強い 6)。

 SNSをコミュニケーション手段として使用しているので、Z世代を集客したい場合は必須といってもいいツールだ。

 特にインスタグラムは写真をメインに投稿するため、美容室との相性が良く、Twitterは拡散力が高く宣伝効果が期待できるので、それぞれの特性を理解して積極的に取り入れている。

 そこで、いかに拡散してもらうかがZ世代集客のポイントとなる。多くの人に見てもらって広く拡散されれば、フォロワー数が増えてさらに大勢から見てもらえるようになる、という好循環が作れる。

 Z世代の利用率が高い施術にクーポンを付けたり、流行のカラーやカット、美容成分などの情報を発信したりするなど、ハッシュタグ「#」をつけて、徐々にフォロワー数や「いいね」を増やしている。

 動画を投稿し、PRだけでなく仕事中の面白エピソードなど入れてファンを掴んでいる。アカウントの運用だけではなく、ネット予約の導入や支払い方法の多様化へのアプローチも忘れていない。

おわりに

 Z世代の次の世代も生まれている。ポストZ世代は「Generation Alpha(α世代)」と呼ばれることで定着しつつあるという。

 ラテン文字の最後にあたるZの次に、ギリシャ文字の最初にあたるαを採用し、新たな時代の始まりをイメージした世代名として考案された。

 α世代は概ね2010年代序盤から2020年代中盤にかけて生まれる世代とされており、2030年代から2040年代頃に社会に進出する世代である。

 21世紀のど真ん中で、彼らが担う未来とはどんな世界になるだろうか。

 参考文献
1)ジェネレーションZ - Wikipedia(2021年7月9日アクセス)
2)https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=64985?pno=2&site=nli(同)
3)http://www.magnumphotos.co.jp/oldsite/ws_exhibition/sligtly.html(同)
4)https://toyokeizai.net/articles/-/12722(同)
5)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000027.000022691.html(同)
6)https://uraraka.co.jp/harutopi/2021/03/04/(同)
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島田邦男

琉球ボーテ(株) 代表取締役

1955年東京生まれ 工学博士 大分大学大学院工学研究科卒業、化粧品会社勤務を経て日油㈱を2014年退職。 日本化粧品技術者会東京支部常議員、日本油化学会関東支部副支部長、日中化粧品国際交流協会専門家委員、東京農業大学客員教授。 日油筑波研究所でグループリーダーとしてリン脂質ポリマーの評価研究を実施。 日本油化学会エディター賞受賞。経済産業省 特許出願技術動向調査委員を歴任。 主な著書に 「Nanotechnology for Producing Novel Cosmetics in Japan」((株)シーエムシー出版) 「Formulas,Ingredients and Production of Cosmetics」(Springer-Veriag GmbH) 他多数

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