【週刊粧業2015年1月12日号4面にて掲載】
最近ニュースで、香港の学生たちが道路に座り込み、反政府デモをしているのを見た。座り込みは何か月も続いたようだ。抗議活動家たちはインターネットを利用して、多くの参加者を動員させたとのこと。
世の中はつくづく「参加型」の社会になったと感じる。政府や企業の情報はインターネット上でつぶさに閲覧できるし、ブログやSNSを利用して個人が意見を発信することはもちろん、ネット上で議論をし、同志とつながり、具体的な行動も起こす。
企業活動も例外ではなく、情報はいつの間にか漏れているし、いったん世間からの逆風が吹けば、立て直すのに膨大な時間とコストがかかる。どうせ隠していてもわかってしまうのなら、いっそ企業側からうまく情報を公開して、消費者と一緒に商品を作り上げていくほうがはるかに成功するように思う。
ある自動車メーカーでは、ホームページ上で新製品の開発状況を公開したり、ファン限定の発売前試乗会を開催して意見を募ったり、ファン同士が交流できる掲示板を提供したりしていた。ホームページの更新をチェックしていた人たちは、発売が近づくにつれ思い入れが強くなり、受注数は目標の数倍にもなったそうだ。このように消費者を巻き込んで味方にすれば、ものすごい大きなパワーを発揮できる。
化粧品業界でも、商品の新発売やリニューアルが頻繁に行われる。化粧品はお客様に使ってもらって初めて価値が出る商品なので、商品の改良はとても重要だ。しかし、新商品開発やリニューアルにお客様の声は十分に反映できているだろうか。作り手側が勝手にターゲットのお客様を思い描き、成分や処方を変えただけというのでは、本当にお客様の心の内側にある潜在ニーズに寄り添うような商品開発はできないと思う。
我々がまず行うべきことは、変化しつつある「女性を取り巻く環境や生き方」を徹底的に研究して、商品の企画段階からお客様の意見を取り入れることだ。
お客様のセグメントはますます細分化せざるを得なくなっている。一人ひとり肌の状態が違うのはもちろん、季節感も四季だけでなくさらに細かく分けられる。化粧品の使い方と密接な関係がある一人ひとりの社会的立場、収入や時間のゆとりなど、生活状況も様々だ。商品コンセプトの礎となる「どんな女性になりたいか、見せたいか」という将来の人生ビジョンや自分の演出方法にいたってはそれこそ千差万別だ。
しかし、そこに共通するのは「私に合った化粧品を使いたい」という思いだ。細分化されているからこそ、「私に合っている」「私のブランド」という気持ちが大切。そうだとすれば、お客様が商品開発に参加できる仕組みを作ることは、さらに愛着が増し、ブランドの成功につながるのではないか。
弊社は化粧品の開発をお手伝いする機会も多いが、なかなか徹底してお客様の声を取り込む仕組みができていないのが現状だ。
例えば、商品開発のプロセスを見せられる部分だけ公開して、消費者も意見を言える部分を作ることも有効だし、工場の一部を見学できるようにするのも一つの手だ。顧客を獲得する手段の「モニター募集」ではなく、本当の「お客様参加型」にして協力を仰ぐ時代に来ていると思う。
お客様が商品開発に参加することで商品に対する思い入れやブランドに対する愛着が育ち、ブランド自体も育っていく。そんな気持ちで商品開発に取り組みたいものである。
鯉渕登志子
(株)フォー・レディー代表取締役
1982年㈱フォー・レディーを設立。大手メーカーの業態開発や通販MD企画のほか販促物制作などを手がける。これまでかかわった企業は50社余。女性ターゲットに徹する強いポリシーで、コンセプトづくりから具体的なクリエイティブ作業を行っている。特に通販ではブランディングをあわせて表現する手腕に定評がある。日本通信販売協会など講演実績多数。
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