第50回 一、二ではなく皮膚

【C&T2022年4月号6面にて掲載】

はじめに

 体の中で「一番大きな器官」は、肺臓でも、肝臓でもなく、皮膚である。成人の場合は全身の皮膚を広げると、たたみ一畳分の面積(約1.6㎡)がある。重さは成人で心臓が約0.3kg、肝臓が約1.5kgに対して、皮膚は体全体で約3~4㎏にもなる。

 よく「面の皮が厚い」と表現するが、医学的には性格と皮膚の厚さは関係ない。厚かましい人でも、そうでない人でも、顔の皮膚の厚さは平均1㎜位だ。また、全身の皮膚の厚さは平均約2㎜である。

 この皮膚については、知っているようで知られていないことが多い。昔は「日光浴は健康によい」と言われていたが、今は適度な時間であれば皮膚の殺菌効果もあるが、長時間がダメという。海水浴などでも30分が限度らしい。

 日本は3世紀に古代中国から漢語が伝わる前まではイチ、ニ、サンではなく、和語の数えかたで、『ひ、ふ、み、(一、二、三)』と言っていた。そこで今回は、日頃から知られている皮膚を数字の一、二のように基本に戻って考えてみたい。

皮膚の機能

 たった2㎜の皮膚には、身体の「保護」「分泌・排泄」「体温調節」「知覚」「吸収」などの機能をもち、ずいぶん働き者だ。

 まず体を守る「保護」の役割は、ぶつかったり、押されたり、こすれたりして加わる力を吸収する、クッションの役目をする。傷ついても自分で治せる能力もある。細菌、洗剤などの化学物質、または紫外線などの侵入も防ぐ“バリア”防御壁の役目をする。



 「分泌・排泄」とは汗のことで、汗には水分や塩分のほかに体の中のいらないもの、つまり老廃物が含まれている。以前、米ぬか油に混ざった有害物質、ポリ塩化ビフェニール(PCB)が加熱されて生じたダイオキシン類が原因による食品中毒が起きた(図1 「カネミ油症事件」、1968年)。

 患者さんには、年齢に関係なく“ニキビのようなもの”ができた。地元・大学病院の皮膚科の診察をきっかけに、「毛穴から有害な物質がでている」ことがわかった事件だ。

 汗をかくと、汗が蒸発するときに熱が奪われて体温が下がるように、皮膚には「体温調節」機能もある。寒いときには縮まって熱の発散を防ぎ、暑いときには広がって熱の発散を助けることを無意識にできている。

 痛み、熱さ、冷たさを感じる「知覚」は日常知られているし、皮膚から薬を「吸収」させる方法も実施されている。



皮膚病の湿疹など

 古代エジプトのパピルス(図2)にも皮膚がんや湿疹、おできなどの皮膚病が記されていたように、人類は皮膚病に悩まされていた。こまかな病気まで含めると900種類以上になる。

 多いのは免疫やアレルギーに関連した過去の連載(第40回、45回)でも取り上げた「アトピー性皮膚炎」だ。次に一般に“かぶれ”と呼ばれる「接触皮膚炎」など湿疹のグループは皮膚病全体のほぼ1/3を占めている。

 “かぶれ”は、何かに触れることが原因で起きる。多いのがネックレスや時計バンドなどの金属製品、ウルシやギンナン、ハゼ、サクラソウなどの植物、治療に使う消毒薬、外用薬や湿布薬などの医薬品、または工業薬品などだ。

 触れた部分の皮膚が赤くなって腫れ、激しい痒みをともなう。工業薬品などでは、一度触れただけで出現する場合もあるが、大半は、何度目かで再接触後のアレルギーを発症する。かぶれは汗でも症状を悪化させる。



 家庭の主婦にも多いと言われ、主婦湿疹ともいわれている手湿疹は、家事で手を使いあらゆる物に触れることが原因で湿疹になる(図3)

 手のひらや指の皮膚がザラザラになり、指紋がなくなってしまう場合もある。手の甲や爪のまわりが赤くなり、強い痒みが出るタイプもある。

 「湿疹」と「じんましん」の違いはご存じだろうか。どちらも痒くて皮膚が赤くなるが、じんましんは症状が数時間で消える。また、中高年の方には”発疹がないのに全身が痒くてしかたがない”「皮膚そう痒症」もある。

 ウイルスが原因の皮膚病がある。例えば「帯状疱疹(帯状ヘルペス)」は、子供のときに「水痘(水ぼうそう)」にかかった人が、中高年になって抵抗力が落ちてきたときなどに、なりをひそめていたウイルスがふたたび活動を始め、発疹をつくる。神経痛をともなうのが特徴だ。手足にできる「イボ」の多くも、ウイルスが原因である。但し老人性のイボは老化による症状なので異なる。

おわりに

 皮膚の異常に気が付いたら皮膚科に行ったほうがいいのか、それとも内科に行ったほうがいいのかという疑問もある。皮膚科は大ざっぱに2つに分かれる。外からの刺激によるものと内臓の異常によるもので、まず皮膚科で何が原因かを診断してもらい、必要があれば専門の科を紹介してもらえばいいだろう。

 次に、皮膚の健康を保つにはどうすればいいか。やはりどんな病気予防にも共通するが、「バランスのとれた食事」「規則正しい生活」だろう。肌の具体的なお手入れは「肌を清潔にする」ことが基本で、石鹸でよく洗うことが大切だ。石鹸を使うと肌が荒れるという人がいるが、十分すすげば、めったに肌荒れはおきないはず。

 ただお年寄りは、あまり石鹸を使ってはいけないと言われている。そしてお年寄りといっても30代から皮膚の老化は始まるので、ご注意を。
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島田邦男

琉球ボーテ(株) 代表取締役

1955年東京生まれ 工学博士 大分大学大学院工学研究科卒業、化粧品会社勤務を経て日油㈱を2014年退職。 日本化粧品技術者会東京支部常議員、日本油化学会関東支部副支部長、日中化粧品国際交流協会専門家委員、東京農業大学客員教授。 日油筑波研究所でグループリーダーとしてリン脂質ポリマーの評価研究を実施。 日本油化学会エディター賞受賞。経済産業省 特許出願技術動向調査委員を歴任。 主な著書に 「Nanotechnology for Producing Novel Cosmetics in Japan」((株)シーエムシー出版) 「Formulas,Ingredients and Production of Cosmetics」(Springer-Veriag GmbH) 他多数

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