連載コラム

化粧品のリテラシー

2022.06.28

第51回 めんそーれ ではなく なにそれ

執筆者:島田邦男 琉球ボーテ(株) 代表取締役

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【C&T2022年7月号6面にて掲載】

はじめに

 琉球大学ベンチャーとして会社を起業して5年が過ぎた。こちらに住んでわかったことがある。例えば…… 沖縄にはスギ花粉症の原因となる杉がないので、スギ花粉症の人は沖縄に行っている間は、悩まされることがない。Yという字が入ったナンバーの車をよくみかける。

 これは、米軍の軍人さんとその家族が、日本で買った車につけるナンバーのことだ。紙パック牛乳は1000mLではなく、946mLと書いてある。アメリカ統治時代の名残。アメリカの牛乳は、ガロン表示で売られており、946mLは、4分の1ガロンに相当する、などなど。

 実はまだまだ沖縄のことを知らないことが多々あると思うし、特に今の若者は沖縄の言葉(方言)も歴史も知らない人が多いだろう。

 沖縄にはあこがれだったものから途絶えてしまったことがある。そこで今回は、こちらでは“ようこそ”を「めんそーれ」というが、沖縄の「なにそれ?」という女性文化史を述べてみたい。





ハジチ

 120年以上前に琉球女性の手の甲や指に「ハジチ」呼ばれる入れ墨文化があった(図1、2)。ハジチは女性のみが行い、奄美・琉球人であることを示すことで日本本土や中国の人さらいから身を守る役割があったとされる。

 さらに、魔よけや後生(死後の世界)への手形とする民間信仰、成人儀礼としての意味もあり、美しさの象徴ともされた。竹針で突いて墨を入れることから針突(はじち)と呼ばれ、ハジチ彫りを施す職人のことを針突師(はじちゃー)と呼んだ。

 宮古島では11、13歳に施す成女儀礼であり、またそれがないと後生(グソー)に行けないと言い、かなり強制力があったようである。沖縄本島では14歳くらいから施し始め、少しずつ文様を増やしていく。文様には地方によって微妙な違いがあり、両手に23の文様を彫りこんで完成とし、その頃が結婚適齢期とされていた。

 文様のそれぞれには太陽や矢といったさまざまな意味がこめられていた。宮古島の場合は手背や前腕に彫り、文様が多彩で、人頭税下、貧困にあえいでいた島であるので、米のご飯をたべる女性に育って欲しいという文様(食器、箸など)もある。

 琉球王国が沖縄県として日本に併合された後も、しばらくこの旧習は維持されたが、1899年(明治32年)10月21日に沖縄県にもハジチ禁止令が出されたことで、差別の対象となった。しかし、昭和初期までハジチを施す者がみられ、1980年代まで生存していたため、詳細な調査記録が残されている。

 都留文科大学の山本芳美教授によると、(禁止令後の)5年間で692人の方が逮捕されている。沖縄女性史家の宮城晴美さんは「禁止されてからも、隠れて行われ、昭和初期まで続いたといわれる。県外で悪く思われたとしても、当時の沖縄では当たり前の風習。突然なくすことは難しく、女性たちの精神文化として息づいていたと考えられる」といわれる。



寄留商人

 戦前沖縄は、離島はもちろん本島も含めて基本的に貧しい農村社会であった。最大の都市で県庁所在地の那覇ですら、1920年代、30年代の人口は約10万人の水準にあった。

 これに対して東京の人口は当時優に200万人。また、1920年代半ば以降、東京や神戸でモダニズムの文化が勃興していたころ、沖縄の経済は砂糖の価格下落を引き金として景気が停滞し、とくに農村部は「ソテツ地獄」と呼ばれる窮乏化に苦しんだ。

 ソテツが有毒であるのにもかかわらず澱粉も多く含まれていることから、中世から近代まで救荒食物の1つとして食用にされてきたのである(図3)



 しかし1882年ごろから沖縄にやってきた他府県の大阪と鹿児島出身の商人で、米や砂糖などの取引をほぼ独占していた寄留商人が生まれる。明治以前の沖縄においては、「僅かに上流社会で洗顔用に『手洗の粉(チュージナクー)』とよばれる青豆を石臼でひいて粉」でしか化粧をする習慣があまりなかった女性が、寄留商人を親に持つと経済的に豊かになる。

 「化粧も上手にして、すっかり大人びた雰囲気」の新しい女性が生まれた。そのため1906年になると、県立高等女学校は服装規程を制定し、華美な服装を禁止し不必要なものは買ってはならないと、女学生の服装についての規制を始めているほどである。沖縄の琉球新報のシリーズ「麗人を描く」には1934年当時の彼女たちの写真(撮影時18~24歳)が残っている(図4)

 父親の職業は医者、実業家、政治家などであった。那覇にいる寄留商人の娘たちは自らがファッションリーダーになったのではなく、那覇から直接、東京に出て流行を選びとり、それを女学生のあいだで流行らせるという行動だった。

 しかし戦中、対極ともいうべき「軍国少女」へ向かう圧力は、総動員体制の強化のもと急速に強まった。1944年には沖縄県立第一高等女学校と沖縄県立女子師範学校が財政難から統合され、翌年3月、生徒222人、教師18人が、南風原陸軍病院へ看護要員として配属される。

 当時の沖縄には大学はなく、エリートであった240人中136人が死亡した“ひめゆり学徒隊”の悲劇は、記憶に刻まれることになった。そして、それに伴って昭和初期に生まれた女性文化も消えてしまったのである。

おわりに

 今、日本では刺青についてどう扱っていいかということが揺れている時代。でも日本の中の沖縄に刺青の文化と歴史が確かに息づいていた。琉球王国から沖縄県になりハジチ禁止令が出されたことで、ハジチはいつしか隠さなければならないものになり文化として薄れてしまった。

 そして軍国少女も同様に沖縄を180度変えてしまった。未来に向かって歴史を繰り返さないで、と祈りたい。

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プロフィール

執筆者:島田邦男 琉球ボーテ(株) 代表取締役

1955年東京生まれ 工学博士 大分大学大学院工学研究科卒業、化粧品会社勤務を経て日油㈱を2014年退職。 日本化粧品技術者会東京支部常議員、日本油化学会関東支部副支部長、日中化粧品国際交流協会専門家委員、東京農業大学客員教授。 日油筑波研究所でグループリーダーとしてリン脂質ポリマーの評価研究を実施。 日本油化学会エディター賞受賞。経済産業省 特許出願技術動向調査委員を歴任。 主な著書に 「Nanotechnology for Producing Novel Cosmetics in Japan」((株)シーエムシー出版) 「Formulas,Ingredients and Production of Cosmetics」(Springer-Veriag GmbH) 他多数

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