第56回 選択ではなく必須

【C&T2023年10月号7面にて掲載】

はじめに

 私たちが毎日使うヘアドライヤーの市場規模は決して大きくはない。2022年度の主要製品の国内出荷金額は、電気シェーバーが約464億円(前年度比1.8%増)に対して、ヘアドライヤーもこれとほぼ同じ約420億円(同28.9%増)となっている。1台あたりの価格は2000~3000円のものから10万円を超えるものまであり、機能も様々だ。

 髪の静電気を抑えたり、髪の温度キープや水分量バランスを整えるものが発売されていて、アタッチメントも豊富である。

 実は先日、当社製品の製造過程においてシュリンクフィルムで包装する際に使用する、工業用ドライヤーのヒートガンで少し火傷をしてしまった。ヘアドライヤーも同様に使用上の注意は必要である。

 そこで今回は、個人でも仕事でも必需品ともいえるヘアドライヤーの製品「選択」ではなく、その歴史や基本的な使用・保管をする上での「必須」事項を述べてみる。



ヘアドライヤーの歴史

 前回のシャンプーの連載でも述べたが、昔の女性は髪を洗わなかった。身分があり、清潔好きといわれる人でも月に1回くらいで、中には一生に一度も洗わないツワモノもいただろう。従ってヘアドライヤーの必要もなかった。

 ヘアドライヤーは19世紀末にフランスで開発されていたようだが、1906年にドイツで初めて製品化されたと言われている。その前年にニクロム線が発明されていたため、電気を熱として利用する手法が一気に加速し、それに掃除機用のモーターを取り付けて、1911年頃には実用化された。とはいえ、当時のモーターは大きくて重く、とても人が持てるようなものではなく、美容院で椅子に座って使うタイプのものが普及していた(図1)

 ドライヤーの歴史は小型化の歴史であると同時に、事故防止の歴史でもあった。洗髪後の濡れた手で使うことが多いドライヤーは当初、感電事故が多く、ハンディタイプが出てからはドライヤーを風呂の中に落として感電し、命を落とすケースも多発したようだ。改良が加えられたドライヤーが今のような形になるのは、戦後の1950年前後である。

 日本では戦前に一度、1937年(昭和12年)に松下電器(現・パナソニック)が販売を開始し、“現在のドライヤーの原型”とも言える手元のスイッチで『温風』と『冷風』を使い分けることができた。

 その後、日栄電機産業が1948年にアメリカのメーカーからの依頼で輸出用製品の製造を手がけ始め、米国側の厳しいコスト要求に打開策を模索しながら、国内で海外製品よりも割安な自社ブランド製品「ライト」を発売した(1949年)。大卒の初任給が3000円だった当時、海外製のヘアドライヤーは1台がなんと2万円だった。



ヘアドライヤーの事故とメンテナンス

 独立行政法人国民生活センターによれば、2016年度から6年間にヘアドライヤーでやけどを負った、誤って髪の毛がドライヤーに吸い込まれたなどの相談は300件以上になる。代表的な事故事例を2件紹介する(図2)

 ①ドライヤーのスイッチを入れたら、持ち手の下の電源コード部分から発火し、右手首をやけどしてしまった(10代 女性)。

 ②ドライヤーを使用中に、吸い込み口に髪の毛が引っ張られてしまい、毛を引っ張って外した。しかし、本体内のファンに残った髪の毛が絡まってしまったために故障。メーカーへ修理に出したが、有償修理になると言われ不満だ(年齢不詳 女性)。

 ヘアドライヤー事故を防ぐことについて、一般社団法人日本電気工業会(JEMA)などの資料を参考に述べる。

 カールドライヤー以外の標準タイプのものでは、吸い込み口付近にファンが内蔵されているため、髪の毛の先端が吸い込み口に近づくと吸い込まれることがある。前述のようにファンに髪の毛が巻き付くと、焦げてしまったり、抜けなくなってしまったりすることがある。



 乾燥中に髪の毛がドライヤーに巻き込まれないよう、吸込口から最低でも10㎝以上離し、乾燥する際は吹出口(ノズル)から最低でも3㎝以上離すよう呼びかけている(図3)。また同じ場所へ当て過ぎると、髪の毛が焦げたり、やけどの原因となる。ヘアピン等の異物が入ると、感電したり異常過熱により発火することもある。



 ヘアドライヤー使用後のコードを本体に巻き付けることは、多くの人がついやってしまいがちだが、このように保管してしまうと本体に巻き付けた回数分のねじれが生じる上、断線やショートの原因となる。また、コードの付け根部分が強く折れ曲がるとコードから発熱、発火などの恐れがある(図4)

 コードの一部が異常に熱い状態や、電源プラグの部分やコードの根元等に破損を見つけた場合は、必ず電源プラグをコンセントから抜いて使用を中止する。そのほか、基本的な使い方はわかっていると過信せず、購入した際は、取扱説明書で注意・警告事項などを確認しておく必要がある。

 事故防止のため手入れも大切である。電源プラグはコンセントから抜いた上で、吸い込み口のほこりを定期的に掃除機で取り除き、整髪料などが本体に付着した場合はきれいにふき取る。そのまま放置するとプラスチック部分のひび割れや変色の原因になることがある。

 手入れのためにアルコールやベンジン、シンナーなどを使用すると、本体のひび割れや引火など故障につながる。絶縁劣化の原因となるため、保管するときは浴室や湿気の多い場所は避ける。幼児の思わぬやけどや怪我につながるため、手の届くところに置かない。以上の点に十分注意が必要である。

おわりに

 シャンプーをして髪を洗うからドライヤーが必要になる。そこで少し余談になるが、シャンプーをした後に髪がゴワゴワになる場合、リンスの代わりに食品用の『酢』が使えることをご存じだろうか。入浴中のせっけんシャンプーで髪がゴワゴワときしむような時、湯桶に大さじ1杯程度の酢を入れ、リンス代わりに髪を濯ぐとサラサラと柔らかくなる。

 この効果はアルカリ性のシャンプーを、酸性の酢で中和させる働きによるものである。ただし、よく洗い流さずに酢が残っているとツンとしたにおいが気になるので、十分にゆすぐ必要がある。酢の使い過ぎもにおいのもとになるので適量を守ることも大切である。シャンプーの種類の相性は、せっけんシャンプーのようなアルカリ性の相性がいい。またリンス代わりに使う場合、カラーリングが取れやすくなるので注意も必要である。
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島田邦男

琉球ボーテ(株) 代表取締役

1955年東京生まれ 工学博士 大分大学大学院工学研究科卒業、化粧品会社勤務を経て日油㈱を2014年退職。 日本化粧品技術者会東京支部常議員、日本油化学会関東支部副支部長、日中化粧品国際交流協会専門家委員、東京農業大学客員教授。 日油筑波研究所でグループリーダーとしてリン脂質ポリマーの評価研究を実施。 日本油化学会エディター賞受賞。経済産業省 特許出願技術動向調査委員を歴任。 主な著書に 「Nanotechnology for Producing Novel Cosmetics in Japan」((株)シーエムシー出版) 「Formulas,Ingredients and Production of Cosmetics」(Springer-Veriag GmbH) 他多数

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