“大人の社会科見学”と称した、「見学ツアー」が好評だという。ビールやお菓子など食料品から、官公庁や造幣局まで、様々な団体や企業が見学ツアーを実施している。従来のただ見て回るだけのツアーではなく、職業体験に近いものや試飲・試食・お土産が充実しているものもある。まるでテーマパークのようだ。多くの企業が無料で行っていることもあり、レジャー感覚で気軽に申し込めるのも人気の要因で、予約がとれないものもあるそうだ。
このようなツアーは以前から実施されていたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、軒並み中止となってしまった。そこで企業はオンラインでの見学ツアーを企画。VR技術で360度見渡せるようにしたり、コメントによる質問を随時受け付けたりと、対面と同じような体験ができるような工夫を凝らした。そして現在、多くの企業が対面でのツアーを再開して、オンラインでの参加者が「リアルでも見てみたい」と足を運ぶようになったということさえあるらしい。
また、オンラインでの経験をもとに、リアルとオンラインの良さを活かした新たな形のツアーを始める企業も増えた。参加者の自宅に商品を届けたうえでオンラインイベントを行ったり、対面でのツアーではコースにフォトスポットを用意してSNSで投稿したくなるようにしたりと、様々な仕掛けが工夫されている。
化粧品会社でも同じような盛り上がりを見せており、工場見学を実施している得意先では、毎回多くのお客様が応募してくる。中には遠方からお越しのお客様や、リピーターとなる方もいらっしゃるとのこと。ツアーの様子を会報誌やHP、SNSなどで紹介するのも効果的で、新たな参加者を増やすきっかけになっている。同時に企業やブランドへの興味関心を高めるのにも役立っているようだ。
なぜこんなにも反響が大きいのか。その理由は普段見られない“裏側”を見られる点にある。工場見学では、日常では見られない製造や梱包の様子、そこに関わる社員たちの表情まで見られる。視覚だけではなく、製造される音や製品の匂いまで五感でリアルに感じられるのだ。愛用ブランドのすべてを見られる、というのはファンにとってたまらなく、知的好奇心をくすぐられる喜びもある。
見学ツアーを行う企業側のメリットも多い。ツアーを通して製造工程やブランドの歴史を知ることで、よりブランドへの愛着が湧くお客様が多くなるのはもちろん、社員の意識にも変化が生まれているようだ。人に教えることで社員のブランドコンセプトや企業ビジョンに対する理解が深まり、さらにお客様の視線を感じることで「自分たちはどう見られているか」という考えから、お客様目線の発想になることにつながっているらしい。
消費者が広告に慣れている今日では、美しく演出された企業の姿は「広告・PRである」といとも簡単に見抜かれてしまう。だからこそありのままの姿を見ることができる見学ツアーへの興味が集まっているのかもしれない。
工場を持たずにOEMに委託製造している会社でも、OEMの工場と化粧品会社の両方を回遊できるようなツアーにしても面白い。実際に行くことができなくても、途中で中継のようにオンラインでの見学を行うこともできそうだ。
どのような形であれ、企業の“裏側”をお客様に見せようという真摯な姿勢がお客様の信頼につながることは間違いない。どのように商品が製造されているのか、いかに工場が安心安全に気を配り、どんな想いで社員一人一人が商品をお届けしているのか、素のままをさらけ出す。企業への信頼が揺らいでいるこの時代だからこそ、必要なことだと思う。
鯉渕登志子
(株)フォー・レディー代表取締役
1982年㈱フォー・レディーを設立。大手メーカーの業態開発や通販MD企画のほか販促物制作などを手がける。これまでかかわった企業は50社余。女性ターゲットに徹する強いポリシーで、コンセプトづくりから具体的なクリエイティブ作業を行っている。特に通販ではブランディングをあわせて表現する手腕に定評がある。日本通信販売協会など講演実績多数。
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