【週刊粧業2024年7月8日号56面にて掲載】
オルビスの小林琢磨社長がインタビューで「通販化粧品と呼ばせない」と語っているという新聞記事を見た。社長就任後のリブランディングで「化粧品ブランドの会社」と再確認し、コロナ禍を経て「リアルの大切さに気がついた」と言う。最近中堅の通販化粧品会社の経営者様たちと話しすると、直営店に関心を持っている方が多くなった気がする。
私は化粧品販売の業態格差はそのうち消滅し、各社ともマルチチャネルになって、「ブランド格差」の時代に突入すると考えているので、この傾向には大賛成だ。時々地方の得意先様が銀座の弊社に来社された時には、帰りに通販化粧品会社の直営店の視察に誘って、案内をしているほどだ。
アメリカのある調査会社のレポートでは、店販とEC通販の両方のチャネルを持っているブランドは、店販だけ、通販だけのブランドより、2.5~3倍のLTVが望めるという結果が出たそうだ。弊社の得意先でも、店販で美容部員に接客されて、その後ブランドの本店サイトで購入してくれたお客様は、通販メディアから入ってきたお客さまよりLTVが高くなっている。またメディアから入ってきた通販顧客が直営店舗に来店し、接客を受けるととても喜んでくれるので、通販とリアル店舗を両方体験したお客様は、「ロイヤル顧客化=ファン化」が促進されそうだ。
このようにこれからの化粧品ビジネスは、店頭だけ、通販だけという業態による優位性や差別化は無くなり、どのようなルートでもお客様に届けられるマルチチャネルのビジネスにならなくてはいけないと思う。
ところが業態が変化すると、収益構造も変化するし、ビジネスモデルも変化する。一つの業態で長い間ビジネスをしてきた組織は、なかなか切り替えが難しいようだ。普段から情報収集や他社研究が不可欠なのだと思うが、なかなかそこまで手が回っていない会社が多い。弊社はすべての業態の化粧品会社のサポートをしてきたので、得意先には「今の業態で売ることに固執せず、そもそも化粧品を売る原点に戻って欲しい」とお願いしている。
つまり化粧品を売るために不可欠な「基本のキ」をしっかり守った運営をして欲しいということである。自分のブランドは、どんな人が買ってくれるのか、お客様はどんな生活をしている人なのか。またどんな肌質、どんな肌悩みを感じているのか、要は「お客さまは誰なのか」を明確にして、とことんお客様に寄り添い、お客様のキレイの願いを叶えてあげることである。
一人ひとりのお客様に寄り添うためには、対面でタッチアップしながら接客するのが良いのか、オンラインで機器類を使ってアドバイスするのが良いのか、ご自宅まで訪問して実際のお手入れを拝見しながらサポートするのが良いのか、方法はいくらでも考えられる。そうすることによってテクスチャーのお好みや、香りのお好み、使い勝っての希望は何か、ひいてはどんな買い物行動を望んでいるのかが明確になる。つまりどこで買うかはお客様の選択次第なのだ。
どんな販売スタイルが自社のお客様にとって望ましいかは、マーケティング戦略の全体像を明確にして詳細な施策やサービスを積み重ねながら決めていくべきだ。その結果として、お客様が満足し、自分自身に自信を持ち、人生に希望や喜びと幸せを感じてもらえるようにすること、それが「化粧品を売る」という商売なのだと思う。
小手先のテクニックや販売者側からの便利さを追求する前に、業態を横断した化粧品ビジネスの王道に立ち戻って勝負するのはどうだろうか?
鯉渕登志子
(株)フォー・レディー代表取締役
1982年㈱フォー・レディーを設立。大手メーカーの業態開発や通販MD企画のほか販促物制作などを手がける。これまでかかわった企業は50社余。女性ターゲットに徹する強いポリシーで、コンセプトづくりから具体的なクリエイティブ作業を行っている。特に通販ではブランディングをあわせて表現する手腕に定評がある。日本通信販売協会など講演実績多数。
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