【週刊粧業2020年7月20日号4面にて掲載】
米医薬品大手ジョンソン・エンド・ジョンソンが、アジアや中東で美白製品の一部の販売を中止することを決めたと、米ニューヨーク・タイムズ紙電子版が報じました。
このニュースは国内でも大きく取り上げられ、化粧品業界関係者だけではなく、SNSでも多くの人が話題にしていました。
化粧品会社の人は「アメリカは肌の色に敏感だから」「グローバル効能表示はすでに苦労していて、今に始まったことではない」「美白製品は色調の不均一性を改善・予防するもの。誤った解釈から火がついて残念」という反応が多かったです。
ところが、一般の方の中には「美白という言葉が、白い肌は美しいという意味になってしまっている。ルッキズムを増長しているので、ずっと違和感があった」など、別の見方もありました。
今回のニュースで見えてきたのは2点。人種差別とルッキズム(容貌差別)の問題です。今、化粧品業界として注意しなくてはいけないのは後者ではないでしょうか。
女性トレンド分析のラボの主宰をして20年になりますが、「美白」に疑問の声があがるのは今回が初めてです。ルッキズム問題はファッションや美容業界に大きく関わってきました。
たとえば、アメリカの下着ブランドヴィクトリアズ・シークレットの一流スーパーモデルが集結する豪華絢爛なファッションショーは、世界中で支持され続けていましたが、ルッキズムを増長するという批判を受けて2019年に無くなってしまいました。ブランドは象徴を失って大打撃を受けています。
世界的には、「ありのままの個性や特徴が美しい」という価値観が浸透しつつあります。ダヴの「リアルビューティスケッチ」は、あなたはあなたが思っているより美しいというメッセージ広告で話題になりました。
我々のような旧世代は、どうしても通り一辺倒のビューティ価値基準に捉われてしまいがちです。美容の分野では美白以外にも、デカ目や小顔、美乳や美脚など、様々なワードがあります。
女性たちの「もっと美しくなりたい!」という欲望には答えるべきですから、これらのワードを使ってはいけないというわけではありません。
憧れのイメージを伝えることは、女性たちにとって非常に大切なことです。ですが、使うときに「逆の存在を否定するメッセージになっていないか」という点に敏感になる必要があるのではないでしょうか。
今までの自分の常識にはズレがあるかもしれない、そういう前提できちんと考える。それが今後の化粧品業界を生き抜く鍵となるでしょう。