【週刊粧業2022年9月12日号10面にて掲載】
化粧品ビジネスにおいて必要なのは、的確にトレンドをつかむことです。昨今、このトレンドの見極めが非常に難しくなっています。TikTokが火種となる一過性のトレンドが多発しているためです。
トレンドのことを○○ブームといいったように表現しますが、「ブーム」よりも短命に終わるトレンドを「ファッド」といいます。TikTokとYouTubeで一定期間に集中的に投下されるようなトレンドを指しており、最近の事例を挙げると、中国美女風「純欲系メイク」などがファッドにあたると思います。
トレンドの賞味期限の見極めは非常に難しいところです。トレンドの見極めを間違って、一過性のファッドなトレンドを半年、一年先の商品企画に取り入れてしまうと、発売時にはすでに陳腐化してしまっているというリスクがあります。
SNSにはファッドが大量に溢れているため、女性潮流研究所では、Twitter・YouTube・Instagram・TikTokなどのソーシャルメディアに加えて、トレンドのスパンが長い雑誌の観測をセットにすることでバランスをとるようにしています。
目立つブームやファッドに目が行きがちですが、ジワジワと時間をかけて広がっている現象も見逃せません。この分野で個人的に気になっているのは「美容のスピリチュアル化現象」です。
「美の先輩に教わる『引き寄せ美容』ルーティン(STORY9月号)」「私たちが目ざしたいのは美の『エネルギー』に満ちた肌(eclat9月号)」「Purify,Inside and Out 上向きな運気を引き寄せる浄化ビューティー。(VOGUE JAPAN9月号)」など、「引き寄せ」「エネルギー」「浄化」という目に見えないワードが使われることが珍しくなくなりました。
美容自体が清潔にすることから始まっていますから、「浄化」というのは「おそうじで開運」のような文脈で受け入れられやすいコンセプトといえるでしょう。
「開運ネイル」「開運メイク」など、色にまつわるスピリチュアルコンセプトはすでに定番化していますが、「誕生石が10個も追加されたって知ってた!? セルフネイルが楽しくなる『誕生石カラーのマニキュア』をまとめたよ(BuzzFeed Kawaii7/13)」など、63年ぶりに誕生石が改訂されたことと絡める形で、新たな流れも来ているようです。
カラーストーンのストーリーをボトルに取り入れたスキンケアも発売されました。
人気の導入美容液「カネボウ化粧品 DEW キャビアドットブースター 40 mL(4400円、8月6日限定発売)」は、カラーストーンにインスパイアされた4色の限定ボトルを採用し、有名占い師のイヴルルド遙華氏監修のルビーカラー、ローズクオーツカラー、アメジストカラー、ペリドットカラーで、「心までお手入れできる」という直球の提案になっています。
近年は「皮膚」だけではなく、「食事・運動・メンタルヘルス」といったように、美容を大きい視点でとらえるインサイトが高まりつつあります。
エビデンスのないスピリチュアルコンセプトビジネスに取り入れるというのは、怪しく見えるリスクもありますが、昨今の美容の文脈として見逃せない情緒的価値提案だと感じています。