【週刊粧業2023年9月4日号10面にて掲載】
自己肯定感、自分らしさ、フェイスポジティブ……。これらは化粧品業界で現在注目を浴びている重要なテーマです。今回は、化粧品のマーケティングに関与する全ての人々が意識すべきポイントについて深く掘り下げ、詳しくお話ししたいと思います。
まず、「自分らしさ」という概念が今までと変化していることに注意する必要があります。「自分らしさ」という言葉を聞くと、すっぴん(あるいは素肌に近いナチュラルメイク)をイメージすることが多いかもしれません。しかし現在は違うのです。素の状態もメイクを施した状態も、そのビフォーアフターや過程を含めて「自分」なのです。
たとえば、YouTubeやTikTokの「変身メイク」は人気のコンテンツとなっています。これらのコンテンツにおいては全て、最初にBEFOREのノーメイクの顔を提示します。そして「自分らしさ」を一旦脇に置き、「〇〇風に変身」するメイクを展開します。
一見、「自分らしさ」を否定しているように感じられますが、実際には新たな「自分らしさ」の定義を提案しているといえるでしょう。つまり、今の時代は変幻自在であり、なりたい顔に自由に変えられること自体が「自分らしさ」であるという考え方が新たに浸透しているものと考えられます。
また、ルッキズムとシスターフッドをテーマとして扱い、Amazonの「女性問題」部門で第1位を獲得した「ブスなんて言わないで(講談社)」の最新刊、3巻(5月発売)においては、現代の美の基準に対する深い疑問が投げかけられています。
本書では、美人美容家が「一重まぶたはキリッと、離れた目はさらに離れて見えるように、大きな口はより大きく、そばかすは隠さず増やして描く」と提案しますが、主人公はそれに対して「鼻と口が広いのは? 厚ぼったい一重は? しゃくれた顎は? それも強調するんですか? 実際は『良い個性』と『悪い個性』を判断してるんじゃないですか?」と疑問を投げかけます。
これは、「自分らしさ」を押し付ける現代社会について、私たちに深く考えさせてくれます。
そのほか、anan(7月19日号)では、「日々をポジティブに過ごすための自己肯定感の取説」をテーマとした特集が組まれていました。
自分らしさや自己肯定感についてメディアやブランドがより多くの言及をしていますが、女性たちは「自分らしさは、人に言われるのではなく、自分自身でコントロールしたい」と潜在的に思っていることに配慮した上で、押し付けにならないように化粧品のマーケティングに反映させるべきです。