【化粧品の環境・社会課題を知る「クリーンビューティー」講座】
生物多様性とは、様々な種が豊富に存在すること。この種とは、ヒトや野生生物すべてのことを指し、野生生物とは動物や植物、昆虫や微生物にまで及ぶ。気候変動やヒトによる過剰な産業開発により、生物多様性は減少し、1970年以来69%の野生生物が減少してしまった。このことから、気候変動に次ぐグローバル課題として注目されている。
化粧品産業では、多くの自然資本を利用する。かねてからのナチュラル&オーガニック、エシカルのニーズが高まりにより、動物由来から植物由来への転換が盛んになると、過剰開発や採取・乱獲等が問題視される。2021年に発表されたダスグプタ・レビューによれば、これまでに自然資本の40%が減少していると報告されている。これは化粧品業界のみならず、グローバルで大きな課題となっている。
「生物多様性に配慮する」とはどういうことなのか――。生物多様性というと、一般には森林保全や絶滅危惧種を減らすことだと思われているようで、他業界からも「化粧品の生物多様性」とは何かをよく問われる。生物多様性と産業についてかねてから研究してきた知見をもとに考えれば、それは、絶滅危惧種に指定されている原料を使用しないということはもちろん、過剰な採取・狩猟などを行わないということがまず鉄則である。
さらには、「ある1つの種」だけでなくその周辺環境にまで配慮することが必要となる。例えば、クリームなどの原料になるアロエフェロクスは、アフリカのケープに自生しているが、東西でその環境構造が異なり、それぞれの地域で干ばつなどの環境破壊が起こっている。
一方では、ゾウなどの草食動物が増えすぎてアロエフェロクスを食べつくしてしまい減少してしまったということや、もう一方では人間による過剰開発によって起こるものである。産業開発は人々の雇用を生み、経済も潤うが、統合的な配慮が必要となる。
なお、アロエフェロクスは、ワシントン条約でその使用等が規制されている。アロエフェロクスは、アロエフェロクスエキスなどとして化粧品原料に一般的に利用されているので、それらをよく確認することが企業責任であるといえる。
また近年、地球環境問題において大変話題になっている原料が「パーム油」である。パーム油は、アブラヤシから抽出したオイルで、化粧品のほか、加工食品や日用品など様々な産業で利用されており、現代の産業ではなくてはならないものとなっている。主にインドネシアやマレーシアなどで栽培され、先進国の過剰ニーズに応えるため開拓を進めたことで、森林減少やひどい干ばつが起こっている。パーム油についてはまた改めて言及したいが、2021年のCOP26では、森林減少に言及し、2025年までにパーム油などの農産物生産に関連する投資を排除するための取り組みを強化することが約束された。
当時このニュースは国内ではあまり取り上げられることはなかったが、これ以降化粧品業界でもパーム油については取り組む企業が多く見られる。ただし、統合的かどうか、またトレイサビリティに配慮されているかについてはまだまだ課題が多い上に、パーム油だけではなくほかの原料についても取り組むことが重要になる。