【週刊粧業2024年10月28日号8面にて掲載】
グローバルでグリーンエコノミーが叫ばれている中、環境問題のみならず生物多様性も重要な視点になってきているのはいうまでもない。今回より、これまでの総括と合わせて、化粧品や日用品など消費財業界における、グリーンサプライチェーンにおける生物多様性保全について解いていく。
グリーンサプライチェーンは、環境に配慮した「調達」「製造」「輸送」「廃棄」を行うことである。グリーンサプライチェーンでは、環境に配慮するだけでなく、生物多様性保全についても考慮しなければならず、特に欧州などでは先進的に行われている。ICEBIT2024学会にて報告した通り、生物多様性に関しては、各社目標は掲げるも、具体的方針が乏しい。また、唯一「廃棄」のみ具体的方針が公表されていたりする。そこで改めて、業界に即した、グリーンサプライチェーンにおける生物多様性保全について考察してみよう。
国内でグリーンサプライチェーンが進まない背景として、まず原料そのものや製品も海外からの輸入に頼っている。特に化粧品では史上の90%近くが海外製品である。さらに、業界全体がサプライヤー任せであるという現実がある。製品ありきの市場構造ではなく、企業が明確なサステナビリティおよび生物多様性保全に関する方針を立て、それに沿った製品展開が必要である。
まず、「調達」では、持続可能な調達が求められ、グローバルでも化粧品・日用品業界で使用用途の高いパーム油のサステナブル調達が叫ばれている(詳細は過去の連載を参照)。RSPOなどをはじめとしたパーム油認証を取得する傾向が多くなってきているが、製品への採用において、100%認証パーム油を採用しているところはまだまだ少ない。パーム油以外にも、絶滅危惧種の野生生物を使用しないことも生物多様性保全につながる。絶滅危惧種は、植物でいえば、アロエ製品などの使用されるアロエフェロクスや、化粧品原料で多く使用される代表的なハーブがある。これらワシントン条約に記載の野生生物が使用されていないか確認する必要がある。これについては、以前JSCFで発行した「CITE記載の植物由来原料」を参照してほしい。動物では、化粧品原料などに多く採用されるフラーレン(サメ由来)がある。海外のメーカーでは、サメ由来のフラーレン使用を排除することも進んでいる。CITEリストは数年ごとに更新されるため、都度確認が必要になる。さらに、「調達」の分野では、原料の周辺にある環境問題や生物多様性問題を把握し、トレイサビリティにも配慮する必要がある。
このほか、農薬や化学肥料を用いずに、土壌環境に配慮した農業で栽培された原料を用いることも、サステナブル原料調達のひとつといえる。オーガニックをはじめとするサステナブル農業では、そもそも環境のみならず、生物多様性にも配慮されている。ただ、この場合、(製品自体に認証が付与されているものは除く)製品中の少量の原料がオーガニックだからといって、オーガニック化粧品というと誤解が生じてしまうので留意する。
長井美有紀
日本サステナブル化粧品振興機構 代表理事
化粧品業界に長く、早くから「環境×化粧品」を提唱。業界・企業・一般に化粧品の環境・社会課題について解く。サステナブル美容の専門家としても活躍し、主に生物多様性と産業について研究。講演や執筆、大学での講義などで幅広く活躍。
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