バックキャスティングで物事を考え
スケールの大きいイノベーション創出
――「ブランドのグローバル展開加速」についてはいかがですか。
小林 ブランドのグローバル展開加速という意味では、「コスメデコルテ」のみが独り立ちしている状況で、「雪肌精 クリアウェルネス」がそれに続くブランドになり得るポテンシャルがあると見ています。
欧米では、グリーンプロダクツの売場が拡張していますので、ちょうど提案をし始めているところです。時流に合った、SDGsのコンセプトを盛り込んだ商品を主力ブランドから投入できましたので、じっくり腰を据えて育てていきます。
――「重点グローバルブランド」の進捗についてはいかがですか。
小林 「コスメデコルテ」は海外が好調でした。特に、W11では前年に対し2倍強の売上を記録しましたし、欧米でも品質について高い評価を受けています。
ブランド誕生50周年を機にケイト・モスからブリー・ラーソンにミューズを変更しましたが、アメリカでは非常に人気が高く、商談においてもポジティブに捉えられています。海外売上比率は免税も含めると50%を超え、すでに日本を上回っています。
ブランド誕生50周年を記念してハイパフォーマンスクリーム「コスメデコルテ AQ ミリオリティ インテンシブクリーム n」に、バカラ社のクリスタルガラス製スタンド、樹脂製スパチュラがセットになった、シリアルナンバー入りの限定品を発売します。
発売をお知らせしたところ、私のところにも多くのお客さまからご期待の声と早期発売のご要望をいただき、急遽、予約受付を2020年12月1日に約2カ月前倒し、発売日も4カ月早め2月16日にしました。
閉塞感が続く時勢の中でクリスマスに明るい話題を提供することができたと思っています。
海外旅行に行けなかった日本人女性の旅費やホテル代、お土産代を合わせると、数兆円レベルに達すると言われています。
そうした中、クリスマスにぴったりの話題を投入できたということもあり非常に反響がよく、国内外において1人で複数予約される人が続出しています。
このアイテムをきっかけに、グローバルにおける富裕層へのアピール強化につなげていくだけでなく、富裕層が思わず買いたくなる売り方を導き出すヒントにしていければと考えています。
「アディクション」はブランドをリニューアルした効果がコロナ禍の中でも着実に出始めており、遅ればせながら復活してきました。「ジルスチュアート」も同様に復調してきました。コンセプトが明快なブランドは、提案の仕方次第で成長の余地はまだまだあります。
「クリアターン」は、台湾・韓国勢の廉価品に押され、苦戦を強いられています。コスメポートの違うブランドに重点を移すことも今後検討していく必要があります。
――「独自性のある商品開発」についてはいかがですか。
小林 コロナ禍で多くの女性たちが求める落ちない口紅やカバー力のあるファンデーションは、当社が最も得意とするところです。今年は複数のブランドから、コンセプトと質感、機能がそれぞれ異なる特徴のある商品を、違いがわかるような形にして投入していきます。
――「新たな成長領域へのチャレンジ」についてはいかがですか。
小林 昨年9月にコーセーマルホファーマから販売を開始した「カルテHD」は、お客さまの評価も非常に高いですし、想定以上に売れています。
我々がこれまで何度もチャレンジし、なかなか成果が出なかった敏感肌市場でしたが、この市場のことを知り尽くした企業とタッグを組んで取り組みを進めた結果、伸長が続くこの市場に確固たるポジションを築く可能性のあるブランドがつくれたことは非常に意義があったと思います。
――生産、研究、デジタルプラットフォームの進捗はいかがですか。
小林 南アルプス工場は、国内生産強化という基本方針に変更はないものの、コロナ禍をきっかけに設計の見直しや環境対応の強化が必要と判断し、稼働を1年程度延期することにしました。
これにより、「大量生産型から進化拡大型への設計コンセプトの抜本的な見直し」「サステナビリティ対応の強化」「新しい生活様式への対応」を進めていきます。
研究では、量子コンピューターの活用によるイノベーションやパーソナライズ対応の強化、さらには、新しいモノづくりの方法の模索に積極的に取り組んでいきます。最終的には、生産やデジタルプラットフォームと融合することも視野に入れています。
今回、工場の稼働を延期したことにより、ちょうど生産、研究、デジタルプラットフォームを同じタイミングで進めることができるようになりました。
これら3つを加速させて融合していくことができれば、独自の体制が構築できますし、パーソナライズやデジタルトランスフォーメーションの実現にもつながっていきます。
やはり究極は、在庫も残さない、資材も無駄にしない、その人その人に合ったモノづくりができる製造業になることであり、そのような将来像を描きながら、従来の延長線上ではなく、バックキャスティングで物事を考え、もっとスケールの大きなイノベーションを起こしていきます。