第99回 細分化される消費者たち!

【週刊粧業2024年9月9日号9面にて掲載】

第99回 細分化される消費者たち!

 長い間アメリカでビジネスをしてきた友人が、最近のアメリカ社会は“分断”が問題だと言う。大統領選を前にした民主党と共和党の争いだけではなく、主張の異なる人々の“分断”が社会に深い影を落としており、「米国脱出」を真剣に考える若者もいるという。

 では、最近の日本はどうかと考えると、いま私が大きく変化していると思うのは、消費者の“細分化”だ。アメリカのように分断ではなく、かつて日本の消費者を総称した“大衆”は影が薄くなって、“一億総中流”でもなければ、“一般的サラリーマン世帯”という言葉も当てはまらない。

 化粧品ビジネスにおいても、かつては多くの人が使うシェアの高い大型ブランドが存在したが、今やそれも一握りとなっている。中価格帯の化粧品が衰退していることも、その傾向の表れだ。消費者一人ひとりが自分の好みやニーズに向き合うようになって、要求されるベネフィットも多種多様化している。

 例えば、化粧品の選び方もとても細分化されている。スキンケアを購入する場合は、まず自分の肌質を意識する、その後に現在の肌悩みに合った商品を選ぶ、これが第一段階。その後テクスチャーが好みに合うか、使い勝手はいいか、使ってみて自分に合うと感じるかなど、自分の感覚や肌実感からのチェックが自然に身についている。その他、購入場所や価格などが最終の大前提の条件として分類される。

 自分なりの“こだわり”も細分化の要因だ。自分にしかわからないパーソナルなこだわり、あるいは自分だからこそ惹かれる“好ましいポイント”や、自分と同様の“関心度合い”など、数え上げたらきりがない。さらにその上の“細分化要因”は、美容に対する知識や情報量の差にも表れている。

 ある敏感肌用のブランド調査で、お客様のインタビューを行い、「これまで使ったことのあるブランド、これから使ってみたいブランド」の名前を挙げてもらった。びっくりしたのは、15名ほどの調査だったにも関わらず、国内外の多くのブランド名が挙がった。世界的に有名なブランドから、家族経営の小さなブランドまで、地域も価格もコンセプトもまちまちのブランドがノミネートされた。弊社では仕事柄、私も社員も比較的多くのブランドを知っており、取り寄せて試用したりもしているので、「ある程度のブランドは知っている」という自信があったのだが、それも見事に打ち砕かれた。

 このまま進化すると、化粧品はますますお客様一人ひとりのニーズに応えるべき商材になり、何よりも「私の肌に何をしてくれるのか」というベネフィットが最優先されて、かつての大型ブランドは無くなり、中小ブランドも拡散状態になって、いよいよパーソナルコスメの時代が到来するのかも知れない。

 そんな時代になると、自分では決めきれないお客様も出てくるので、必要になってくるのは“お手本”となる先生の存在。それが美容家やインフルエンサーやユーチューバーなどの人気に現れている。

 最初は美容ネタがスタートでも、そのうち身体、健康、暮らし方まで、幅広く参考書としてチェックするようになる。これも“細分化現象”の行きつく果てかも知れないと思う。

 兎にも角にも、“細分化”は「私は私、貴方は貴方」という考え方なので、“分断”のように争い事に発展することは少ないのではないかと考えると、“一億総中流”から“細分化”への移行も悪くはないと思えてくる。

この記事のお問い合わせはこちら

鯉渕登志子

(株)フォー・レディー代表取締役

1982年㈱フォー・レディーを設立。大手メーカーの業態開発や通販MD企画のほか販促物制作などを手がける。これまでかかわった企業は50社余。女性ターゲットに徹する強いポリシーで、コンセプトづくりから具体的なクリエイティブ作業を行っている。特に通販ではブランディングをあわせて表現する手腕に定評がある。日本通信販売協会など講演実績多数。

http://www.forlady.co.jp/

一覧に戻る
ホーム > 連載コラム > 第99回 細分化される消費者たち!

ライブラリ・無料
ダウンロードコーナー

刊行物紹介

定期購読はこちら
株式会社ミンテルジャパン
お仕事紹介ナビ

アクセスランキング

  • 日間
  • 週間
  • 月間
PDF版 ダウンロード販売
化粧品マーケティング情報
調査レポート
株式会社矢野経済研究所
pagetop