ジャパン・コスメティックセンター(JCC)、唐津市を化粧品の一大産業集積地へ

カンタンに言うと

ジャパン・コスメティックセンター(JCC)、唐津市を化粧品の一大産業集積地へ

 佐賀県唐津市を中心に、フランスと連携して化粧品の一大産業集積地をつくり、アジア進出の拠点とする――。この「唐津コスメティック構想」の実現に向けた一歩が踏み出された。

 11月11日、唐津市内のホテルで、地元化粧品関連会社、大学などの研究機関、行政などで構成する産学官連携組織「ジャパン・コスメティックセンター(通称JCC)」の設立総会が行われた。全国から150近くの企業、延べ約300人が参加し、JCC発足の門出を盛大に祝った。

 なぜ、フランスは化粧品産業の集積地に唐津を選んだのか。何を目的として「唐津コスメティック構想」は生まれたのか。そのねらいについて取材した。

コスメティックバレーを日本にも
佐賀県をアジア市場へのハブに

 構想が初めて持ち上がったのは2012年のこと。天然由来化粧品にこだわるフランスのアルバン・ミュラー・インターナショナルのアルバン・ミュラー社長が、アジア進出の拠点と新原料を求めて来日したことから始まる。ミュラー氏は、唐津にはアジア市場への輸出拠点となる唐津港などのインフラが整っているうえ、化粧品OEMメーカーのトレミーなど化粧品関連企業も立地しており、「製造・検査・物流」の連携体制がすでに構築されていることに加えて、新原料を栽培できる広大な農地や薬用植物栽培研究所があることから、唐津を「日本版コスメティックバレー」設立の地に選んだ。

 ミュラー氏は、フランス北西部にある化粧品産業クラスター「コスメティックバレー」の前会長でもあり、その設立にも関与した。1994年に設立した同バレーは、ディオールやクリニークといった世界に名立たる化粧品関連企業や研究機関などで構成され、現在の会員数は320社。化粧品原料の現地調達システムが進んでおり、一次産業から三次産業までが深く結びついた産業振興が実現しているという。同時に、多くの雇用が生まれ、地域の活性化も図られている。

 唐津でも、こうしたフランスの先行事例を研究し「日本版コスメティックバレー」として、化粧品産業を集め、地域活性化へとつなげるねらいがある。

 化粧品産業におけるフランスと日本の経済的な協力関係を強化するため、今年4月12日、坂井俊之唐津市長とコスメティックバレーのジャン・ルック・アンセル事務局長が協力連携協定を締結し、日本版コスメティックバレーの実現に向けた取り組みを本格始動させた。

 唐津市に本社を置く化粧品成分分析会社ブルームの山崎信二社長は、「国内化粧品市場がどんどんシュリンクしており、アジアを筆頭に海外市場への展開が産業衰退の突破口となる」と、国内化粧品市場が対峙している課題に触れ、日本の化粧品メーカーの製造技術は世界トップ水準と言えるが、薬事法による制限があり、研究開発力は他国に比べて弱いことも指摘した。

 このことから、「フランスのコスメティックバレーと連携関係を結べば、日本のモノづくりの技術とフランスの研究開発力やブランド力がひとつになり、どこにも負けない化粧品がつくれる」と唐津コスメティック構想に大きな期待を寄せた。

JCCが日仏の懸け橋となり
200億円規模の生産目指す

 11月11日に開催したJCC設立総会で坂井市長は、事業計画として2013年内に着手するプロジェクトの実行を発表した。

 その内容は、①「フランス企業とのビジネス交流を進め、新しいビジネスチャンスをつくること」、②「化粧品関連企業と生産者がジョイントした6次産業の事業展開にチャレンジすること」、③「天然資源の調査、研究の準備を進めること」、④「JCCの情報を広く国内外に発信し、アジア市場の開拓に向け準備を整えること」の4つ。現在、中小企業を中心に約50社・研究機関が当面の会員に見込まれており、佐賀県、唐津市、玄海町及び佐賀大学、九州大学などが支援会員として民間企業の活動を支援していく。今後は、企業誘致や生産体制の整備、人材確保に向け、国会で審議されている「国家戦略特区」へ提案し、企業誘致などを優位に進めていく方針を示した。

 JCCの初代会長には、発起人であり、フランスのコスメティックバレーを成功に導いたミュラー氏が就任し、日本版コスメティックバレーの土台づくりを主導する。総会当日にあいにくの欠席となったミュラー氏は、ビデオレターを通じて会場の参加者に向け「人、組織、自然界すべてとの協調が成功の鍵だ。会長を任されたことは大変感謝しており、JCCが良い方向性を示して行けるよう尽力する」とメッセージを送った。

 古川康佐賀県知事は、唐津コスメティック構想を「前例のないプロジェクト」としながらも「間違いなく挑戦する価値のあるプロジェクトであり、構想が実現するように佐賀県は最大限支援していく」と行政の支援を約束した。

 また、坂井市長は取材に対し、繰り返し「夢」という言葉を使い、この構想の実現にかける『思い』を熱く語った。唐津には農地に適した綺麗な土壌と水に恵まれ、農作物も豊富だ。しかし、その一方で農業人口の高齢化や耕作放棄地の拡大も懸念されており、「何とかして農家を元気づけたいと考えていた時に、唐津コスメティック構想を知った」と当時の心境を振り返った。そして、山崎社長やミュラー氏といった発起人と話し合いを進めるうちに、「これを実現することが、生産者を元気づけることになる」と確信すると、二つ返事で快諾し、異例の早さで行政としての対応を進めたという。

 唐津コスメティック構想に基づき産業としての収益を上げられるようになるには3~5年はかかると見込んでいるが、一部では輸入の商談も始まっており、早期の実績づくりを図っている。

 「唐津には、国内でも珍しい薬用植物栽培研究所もある。園内で栽培された植物以外にも、自生する植物も化粧品原料として応用できる可能性を秘めており、現在、その抽出物を研究している。九州は国内人口の10分の1、さらに唐津市は1000分の1と人口規模は小さい。このため、九州におけるポテンシャルを高め、まずは化粧品産業市場規模(約2兆円)の100分の1、つまり200億円の生産規模を目指したいと皆と話している。産学官の懸け橋としてJCC、そして唐津ができることは何でも支援していきたい。どのような形になるかとても楽しみな事業だ」(坂井市長)

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