花王、化粧品塗布中の感触の時間的変化を評価する手法を開発

粧業日報 2019年6月17日号 1ページ

カンタンに言うと

  • アイトラッカーを活用して視線の移動で評価、感触の時間的変化を可視化。
花王、化粧品塗布中の感触の時間的変化を評価する手法を開発
 花王感覚科学研究所と花王スキンケア研究所は、化粧品の塗布中に人が感じる感触について、その時間的変化をアイトラッカーを活用して視線の移動により評価する手法を開発した。

 これによって感触の時間的変化の可視化が可能になり、塗布しているときから心地よさ、楽しさなどの使い心地に価値が感じられる化粧品の開発において有効な指標となり得るという。同研究内容は、日本認知心理学会第17回大会(2019年5月25~26日、京都)にて発表している。

 化粧品では、保湿などの機能とともに、塗布しているときの感触などの使い心地も重要な価値だが、これまで肌に塗布しているときの感触は、塗布が終わった後で「なめらか」「密着感がある」などの官能評価を行うことが一般的で、塗布中に感触がどのように変化しているのかは詳細に評価されてこなかった。

 同社は、塗布しているときから高い価値や満足を感じられる化粧品の開発を目指し、これまで主に飲食品の味などの時間的変化の評価法として用いられてきたTemporal Dominance of Sensations法(TDS法)をもとに、塗布中の感触の時間的変化をアイトラッカーを活用して視線の移動により評価する手法を開発した。

 TDS法で飲食品の味などの時間的変化を評価する場合は、口に入れた後すぐ計測がスタートし、評価者はコンピュータ画面上に呈示される複数の特性用語(「甘い」「すっぱい」など)からその時に「注意をひかれた感覚」を選択して、感覚の時間的変化を評価する。この際、特性用語の選択は「キー押し」など手指で行われ、評価結果は、「甘い」「すっぱい」などの特性が選択された割合の時間的変化を線グラフで示したもの(TDS曲線)として可視化される。

 このTDS法を化粧品塗布中の感触に適用しようとすると、「キー押し」で特性用語を選択すると剤に触れている手指の動作や感覚が阻害され、正しく時間的変化を評価できないことが懸念されるなど、大きな課題があった。

 そこで今回は、手指の動作や感覚を阻害しない方法として「視線」に着目。アイトラッカーを用いて、コンピュータ画面上の感触に関する特性用語(「なめらか」「密着感」など)に評価者が視線を向けるだけで選択できるようにした。試行の結果、「視線」による選択は「キー押し」や「音声」による選択と比較して、感覚を遅れなくリアルタイムに評価することが可能なうえ、評価者にとっても自由度が高くて回答しやすい印象であることが判明し、「視線」による選択方法が感触の時間的変化の評価に適していることが確認できた。

 研究では、クリーム状と乳液状のテスト処方の塗布中の感触の時間的変化を、6つの特性用語を選定したうえで評価した。クリーム状の処方は塗布初期になめらかさ、続いて比較的早い段階から終わりにかけて密着感が出現した一方、乳液状の処方では塗布初期になめらかさ、中期になめらかさや油っぽさ、密着感、中期以降から終わりにかけて密着感が出現した。この手法により剤の塗布中の感触の時間的変化が評価され、同一評価者での再現性も比較的高いことを確認した。

 同社は、この手法を化粧品の設計や評価に活用して、塗布中の心地よさや楽しさなど、使い心地にも高い価値と満足を感じられる商品の開発を目指していく。
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