花王メイクアップ研究所は、汎用の油剤とワックスからなるリップケア製剤の塗膜の水分閉塞性の高さが唇のあれ改善に大きく寄与することを見出した。
今回の研究成果は、「The efficacy of a highly occlusive formulation for dry lips (International Journal of Cosmetic Science)」(42, 46-52, 2020)に掲載された。
唇は人の体の中でも特にあれを起こしやすい場所で、口腔粘膜と皮膚の境目なので皮脂腺がなく、表面を覆う油分が分泌されない。こうしたことから、唇の角層はほかの皮膚の角層に比べて水分が蒸散しやすく、多くの人が乾燥・皮むけといった悩みを抱えており、このような唇のケアにリップクリームが一般的に使われている。
これまでは、リップクリームに含まれる成分の唇のあれ改善効果について盛んに研究されてきたが、塗膜の水分閉塞性がどのくらい唇のあれ改善に寄与しているのかは明らかになっていなかった。
そこで今回、汎用の油剤とワックスを組み合わせて、水分閉塞性の異なる製剤をつくり、その塗膜の水分閉塞性の違いによる唇の乾燥・あれ改善効果を検証した。
唇の乾燥が気になる20~39歳(平均28.1歳)の日本人女性20名を対象に、塗膜の水分閉塞性が異なる2つのリップクリームサンプルを用意し、試験を行った。対象者を角層水分量と経皮水分蒸散量(TEWL)がほぼ均等になるように2群に分け、1つのリップクリームを、1日4回(朝、昼、夕方、就寝前)を目安に4週間連続して使用してもらった。
試験期間中は、サンプル以外のリップクリームや口紅などを使わず、使用前、2、4週目に目視評価、写真撮影、3D撮影、角層水分量測定を行った。
目視評価については、「あれスコア」と「シワスコア」の基準をもとに判定。今回新たに、ANTERA 3D画像を取得し、シワカスタムモードから「くぼみ指数」を定量的に算出した。
その結果、水分閉塞性の高いリップクリーム(高水分閉塞性処方)を使用した群では、「あれスコア」のレベルが2、4週と下がる傾向にあり、4週後には有意に、落屑(らくせつ:皮むけ)がない状態へ向かうことがわかった。また「シワスコア」と「くぼみ指数」に関しても、高水分閉塞性処方群では、4週後に有意に変化し、深い縦ジワやくぼみが見られなくなった。
これまでの研究で、あれの程度と最も相関が高いことがわかっている唇の「角層水分量」に関しても、高水分閉塞性処方群は2、4週と有意に増加しており、見た目だけでなく角層の状態もよくなったことが明らかとなった。
唇のケアには一般的にリップクリームが使用されているが、今回の検討で、塗膜の水分閉塞性の違いが唇のあれ改善に与える影響が大きいことが明らかとなった。今後は、この知見をリップケア製剤の開発に応用していく。