資生堂は、マサチューセッツ総合病院皮膚科学研究所(CBRC)との共同研究により、肌に軽い刺激を与えることで、肌内部のオキシトシン分泌が増加することを発見した。また、肌由来オキシトシンが、表皮の再生を促す作用をもつことを見出した。
従来、脳下垂体だけではなく、肌からもオキシトシンが放出されることは確認されていたが、肌由来オキシトシンの詳細な役割は解明されていなかった。
この研究成果の一部は「米国レーザー医学外科学会(ASLMS)」(2019年3月27~31日)、「欧州研究皮膚科学会議(ESDR)」(2021年9月22~25日)にて発表している。
今回の研究は、資生堂独自のR&D理念「DYNAMIC HARMONY」のInside/Outsideというアプローチで進めた。肌の外からの「タッチ」による肌内部での変化を明らかにし、その変化を増幅するソリューションを開発することで、肌の内外から美しさを引き出す製品やサービスの提供を目指し、研究を進めていく。
9個のアミノ酸からなるペプチドホルモンであるオキシトシンは、ヒトの精神的な安定や絆、母性愛にも関与することが知られており、「幸せホルモン」や「愛情ホルモン」などの名称で呼ばれることもある。
一般的には、脳内の神経分泌細胞で合成され、脳下垂体から血中に放出されることが知られているが、同社は過去の研究において、オキシトシンが表皮でも合成されることを発見し、肌由来オキシトシンの存在を明らかにしている。しかし、肌由来オキシトシンの役割は十分に解明されていなかった。そこで、まずは肌由来オキシトシンの産生条件について研究を進めた。
オキシトシンは非常に分解が早いため、正確に検出・測定するためには高い技術が必要なことから、今回、CBRCと共同研究を進めた。その結果、肌に軽い刺激を与えることで肌由来のオキシトシンの分泌量が増加することを明らかにした。
次に、肌由来オキシトシンが肌に及ぼす作用について調査を行い、軽い刺激を与えた肌を観察すると、表皮再生の指標となるKi67が増加していることがわかった。また、この作用が肌由来オキシトシンによるものかを確認すべく、オキシトシンの作用を阻害する薬剤を用いて検討を行ったところ、軽い刺激とともにオキシトシン阻害剤を与えた肌では、軽い刺激のみを与えた肌と比較してKi67が減少することを確認した。これにより、肌由来オキシトシンが表皮の再生を促すことを明らかにした。
さらに、CBRCとの共同研究で見出した肌由来オキシトシンによる効果を高めるため、資生堂独自で有用な薬剤の探索を行った。その結果、ゲットウの葉から抽出した成分に、表皮細胞においてオキシトシンへの応答を増強させる効果があることや、表皮の細胞増殖を高める効果があることを見出した。
同社はこれまでにも、刺激を伝える役割をもつ「神経」と「肌」は密接な関係があることを見出しており、今回、一般的に知られている脳由来ではなく、肌由来オキシトシンが肌に与える影響について初めて解明した。今後、肌に触れることで健やかな肌へ導く新しいアプローチにつなげていく。