資生堂は、光老化した皮膚において、2種類のマクロファージ(免疫細胞)のバランス(M1/M2バランス)が、コラーゲンの産生や分解、除去など、一連のコラーゲン代謝に関与していることを明らかにした。コラーゲン代謝への悪影響による皮膚中のコラーゲン量や性質の変化は、肌の弾力性低下などを引き起こす可能性が考えられる。
これまで同社は皮膚での「インフラマエイジング(Inflammaging:炎症老化)」に着目し、皮膚内のマクロファージのバランス(M1/M2バランス)が、光老化によって崩れ、M1マクロファージが増加しM2マクロファージが減少すること、それによって真皮線維芽細胞の老化が引き起こされることを明らかにしている。
今後、皮膚内で創傷治癒に関わることが知られている免疫細胞の一種であるマクロファージのバランスと、加齢や光による皮膚の老化との関係を明らかにすることで、顧客の様々な肌悩みに対する新しいアプローチの提案を目指す。
コラーゲンは皮膚真皮層のおよそ70%を占めるともいわれ、皮膚の形態的特性を決める重要な因子の1つと考えられている。このコラーゲンを生み出す主要な細胞としては線維芽細胞が知られ、紫外線などの影響で進む光老化では、線維芽細胞によるコラーゲンの産生が減ることやコラーゲンの過剰な分解が起こることが知られており、その結果、肌はハリや弾力を失い、シワやたるみが生じると考えられている。同社は以前より線維芽細胞をはじめ様々な要因に着目してこの分野における研究を進めており、皮膚の露光部では、2種類のマクロファージM1とM2の総数は加齢によって変化せず、そのバランスが変化することを明らかにしている。今回、皮膚のインフラマエイジングに関与することが示されたマクロファージバランスの崩れに着目し、新たな切り口での研究を進めた。
M1/M2バランスは、創傷治癒におけるコラーゲン代謝のコントロールに重要であることが近年報告されている。そこで、M1、M2マクロファージが線維芽細胞によるコラーゲンの産生と分解に与える影響について検証した。その結果、皮膚組織において、M1/M2バランスとコラーゲン発現に相関関係が確認された。また、M1マクロファージの培養上清を線維芽細胞に添加した場合に、コラーゲン産生抑制・分解促進が起こることでコラーゲン線維が顕著に減少することが明らかになった。加えて、M2マクロファージの培養上清を添加した場合には、M1マクロファージの培養上清を添加した時と比較してコラーゲンの前駆体であるプロコラーゲンを指標にした評価でコラーゲン産生が促進されることがわかった。
次に、マクロファージに特徴的な生体内物質を取り込み消化・除去する機能と、皮膚のコラーゲン代謝との関わりを明らかにする目的で、M1、M2マクロファージと線維芽細胞が変性コラーゲンを消化する能力について検証した。
その結果、M2マクロファージが顕著に変性コラーゲンを取り込み消化・除去していることがわかった。線維芽細胞は、本来の健全な立体構造をもったコラーゲンと結合している方がより多くのコラーゲンを産生することが知られている。M2マクロファージによって変性コラーゲンが適切に除去されることで、よりコラーゲンが産生されやすい環境が作り出されている可能性が示された。
M1マクロファージは、そのもととなる一般的なマクロファージから分化することで機能を発揮することが知られているため、M1マクロファージへの分化を抑制する薬剤を探索した。その結果、オトギリ草抽出液にM1マクロファージへの分化を抑制する効果があることがわかった。M1マクロファージへの分化が抑制されることで、M2マクロファージが増えやすい環境になることが期待される。
皮膚内のM1/M2バランスが崩れることにより、慢性炎症を止めることができずにインフラマエイジングを引き起こしているという発見に続き、研究ではマクロファージのバランスの崩れが、コラーゲン代謝に影響を与えることを見出した。
マクロファージバランスを健全に保つことにより、これまでのコラーゲン産生の維持・促進の効果に加えて、分解後のコラーゲン除去を含めた肌本来のコラーゲン代謝を適切に維持できることが期待される。